第11話 獲物は強かった

 俺たちはギルド会館に行くことをやめて、アンデットモンスターのいるところへと進む。クエストだと俺とアリスの正体がバレる恐れがあるからである。


 恐怖に怯える人々の言葉を小耳に挟んだ俺たちは、アンデットモンスターの居場所を特定し、王都の広場へとやってきた。すると、そこにはものすごい数のアンデットモンスターがぶらついている。300体は軽く超えそうだ。一見ゾンビのように見えるこの群れは、王宮騎士団と思しき甲冑姿の人たちと対峙している。


「ぶああああ!」

「っ!なんだこれは!?動きが早い!」

「慌てるな!訓練通りにやれば退治できるはずだ」


 騎士団長が剣を抜いて、アンデットモンスターらに向ける。そして呪文を唱えた。


「聖なるこの剣に強き力を!ソードマスター!」


 すると、黄金色の光が剣を包み込んだ。そして、それを一振りする。そしたら黄金色の光の一部がアンデットモンスターの体を切った。二等分になったアンデットモンスターは動きが止まった。けれど、あっという間に、その二分された体が元にもどって、騎士団長を睨め付ける。


「……やっぱり再生するのか……でも、俺はラオデキヤ王国の騎士団長だ。負けてたまるか!!!!」

「グアアアアアアアア!!!!!」


 怒り狂うアンデットモンスターは騎士団長に飛び掛かってくる。


「剣の強化!身体能力増加!ふあああああああああ!!!


 すると、騎士団長はものすごいスピードで、アンデットモンスターを寸断する。やがてミンチ状になったアンデットモンスターは再生することなく、動きが止まった。


 それを確認した騎士団長は安堵のため息を一つついてから、他の騎士団員とやってきた冒険者たちに向かって大声で言う。


「このアンデットモンスターは再生不能になるまで細切れにしないと倒せないんだ!だからクラス3以上じゃないとまともに戦えね!おい!クラス1と2のやつは戻って平民や女性貴族に避難を呼びかけろ!残りのやつはこのアンデットモンスターを倒してくれ!やつは知能が低い。だからできるだけ協力プレーで倒せろ!」


 そう言って、狩りを再開する騎士団長。騎士団の人や冒険者たちもそれに釣られる形で戦い始める。


 俺の隣にはアリスとメイド二人がいる。戦ってくれる人たちが存在するわけだから、こっちは援護に回った方が効率がいい。


「アリス!」

「は、はい!」

「アリスはどんな魔法が使える?」

「私は氷の魔法が使えるの」

「だったら、俺と一緒に援護しよう。騎士団の人と冒険者が傷を負わないように、魔法でアンデットモンスターの足を止めてくれ。細切れにする必要はない。なるべく人たちを守る方向で行こう」

「わかったわ!」

「メイドさんたちはアリスを守ってください!」

「はい!晴翔様のおっしゃる通りにいたしましょう!」

「おまかせを!」

 

 幸いなことに、今は夜だ。つまり、俺たちの正体がバレる確率は低い。だけど、油断は禁物。


「HK416召喚……」


 俺が(ノリで)詠唱すると、赤外線スコープ付きのHK416という小銃が現れた。俺が特殊部隊で最も愛用していた銃である。


 そして


「消音器……召喚」


 消音器も召喚し、それを銃口につけた。やっぱり銃声は大きいので、それなりの配慮は必要だ。


「よし!行くぞ」


 俺は、アンデットモンスターたちの頭を狙って銃を撃った。すると、アンデットモンスターが倒れる。そして10秒ほどが経つと再び起き上がるが、騎士団の人が器用に剣を振り、寸断する。


 アリスはというと、詠唱なしで、氷柱を生じさせ、冒険者を襲うアンデットモンスターに飛ばした。


 メイド二人はちゃんとアリスを守ってくれている。


 こんな感じで約1時間ほど戦闘を続けていると、やっとアンデットモンスターは全滅した。


「ひゅ〜なかなかしんどかったな!」

「なんか、俺を襲ってきたアンデットモンスターが急に倒れたりしたけど、なんでかな?」

「あ、それ俺も思ったぜ!」

「負傷者は今のところいないっぽいな」


 冒険者たちと騎士団の人たちがお互いを褒め称え握手を交わしている。


 これで終わりか。


「晴翔……」

「?」






「まだ終わってないわ」

「何!?」






 意味深な声音で俺に言ったアリスに俺がキョトンと小首を傾げていると、ミンチ状になったアンデットモンスターの肉片が急に動き出した。


「な、なんだあれは?」

「まだ動いてる?」

「一箇所に集まってるぜ!」


 肉片の塊は、広場の真ん中で急に黒い光を放ち、巨大な人間の姿になった。



「あ、あれは……アンデットネフィリムだ!!!!」



「おあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 10メートルを優に超える巨大なアンデットネフィリムが声をあげると、どよめきが走る。


「あれは……クラス4以上の人じゃないと太刀打ちできんぞ……」

「いや、それでも勝てる確率は低い……クラス4の人が数十人がかりでやれば勝算はあるけど」

「戦闘に慣れたクラス5じゃないと互角に戦えないんだよあれは!」

「戦闘に慣れたクラス5?そんな英雄ここに一人もいねーだろ!クラス4も騎士団長と冒険者数人だけだしよ!」

「こんなの勝てるわけがない……全滅だ……」


 口々に言う冒険者と騎士団員たち。


 だが、


「情けない!!俺が先頭に立って攻撃を仕掛ける。戦いたいやつはついてこい!怖気ついたやつは好きにしろ!足手まといだ!グアアアアアアアア!!!ラオデキヤ王国のために!!!!」


 騎士団長が先陣を切ると、勇気ある騎士団員や冒険者数人がアンデットネフィリムへと向かう。


「聖なるこの剣に強き力を!ソードマスター!剣の強化!身体能力増加!今度こそ終わりだ!!!トドメをさしてやる!!」


 攻撃を仕掛ける彼の顔に恐怖という感情は見えない。


 あっぱれだ。


 だけど、





「おおおおああああああああああああああ!!!!!!!」



「「あああ!!」」



 攻撃を受けていたアンデットネフィリムがものすごい力で体を揺らした。その衝撃をもろに受けた騎士団長らは60メートル以上飛ばされてしまう。


 呻き声を上げる彼らは戦闘ができる状態ではない。早く治療を受けないと命を失いかねない。


 だとしたら、


「アリス!」

「え?」

「あのアンデットネフィリムの特徴を教えてくれ」

「……アンデットネフィリムはとても早く、強力よ。魔法は使えないけど、あれを倒すには理論上クラス4の人が50人以上いるの」

「……なんとかこいつを足止めが出来れば……」

「私の魔法でアンデットネフィリムを氷の中に閉じ込めることはできるわ。けど……」

「けど?」


「ううん。なんでもない。私……やる!」


 握り拳を作り闘志を燃やすアリス。


「ああ。でも一つ問題がある」

「?」

「アンデットネフィリムは真ん中に立っている。安全のためにも、端っこに追いやる必要があるが……」

「「晴翔様、私たちが敵を端っこに誘導しましょう」」


 俺が頭を悩ませていると、メイド二人が明るい声で返事をしてくれた。


「い、いいですか?」

「はい!私たちはあの強力なアンデットネフィリムを倒す事は出来ませんけど、誘き寄せる事はできますよ!」

「晴翔様は聡明であられます。なので、晴翔様の命令に従うのが最善の選択だと判断しました」

「……じゃ、こっちからよく見えるあそこに敵を誘き寄せてください。無理そうなら逃げても構いません。責任を持ってお守りしましょう」

「っ!は、はい……晴翔様を信用いたします!」

「ひどいことをされかけた私たちを救って下さった晴翔様の強さはよく知っております。では!」


 二人のメイドは目で合図してから、呪文を詠唱する。


「「スピードアップ!」」


 すると、靴に白い光が現れた。それから二人は、ものすごいスピードでアンデットネフィリムへと向かう。


 俺はHK416小銃を消して、赤外線スコープ付きM24狙撃銃で彼女らをカバーする。


「こっちこっち!弱くてキショいアンデットネフィリムさん!こっち見て!」

「えいっ!」


 子供っぽいメイドさんが言葉で挑発し、大人しいメイドさんが魔法で攻撃を掛ける。


 するとアンデットネフィリムは彼女らに物凄いスピードで向かってきた。


 俺はアンデットネフィリムの足を狙い数発撃った。すると、アンデットネフィリムの動きが少し鈍くなり、二人のメイドは安全距離を確保しつつ誘導する。


 よし、人のいないところにちゃんと誘き寄せてくれてるな。


 もう少し

 

 あともう少し


 今だ


「アリス!お願い!」

「はああああ……」


 アリスは詠唱なしで巨大な氷を生じさせアンデットネフィリムを閉じ込めた。アンデットネフィリムは持ち前の強力な力を利用して暴れているが、アリスが目力を込めて巨大な氷が割れないように意識を集中させている。


 そして俺は、M24狙撃銃を消して


「二人とも、アリスを守ってください!」

「「はい!」」


 攻守交代だ。


 二人のメイドは俺とアリスのいる所へやってきた。そして俺は囚われたアンデットネフィリムの所に走って行き


「M134ミニガン、召喚!」


 そう唱え、



「くらえ!!!!!!」

 


 ぶっ放した。


 1.2秒で約100発もの弾丸がアリスの氷を貫いてアンデットネフィリムの肉に直撃する。バレルが赤くなれば再び召喚して取り替えて連射する。


「あああああ!!!!」

 

 暴れ続けるアンデットネフィリム。だが、現代文明の賜物に抗う事はできず、数千発を食らった体はすでに粉々になっている。


 赤くなったミニガンの火薬の匂いが漂った頃にはアンデットネフィリムは、黒い光を発し、完全に消えた。


「す、すげ……」

「英雄だ……英雄が現れた……」

「初めて見る武器だ……ドラゴンのような鳴き声をあげて放たれる魔法弾の威力は間違いなくクラス5!」




アリスside



 アリスの心臓は爆発寸前である。


 自分を救ってくれた男が、一度も見たことのない武器を使って、強い敵を格好良く倒した。


 タコ焼きを作るための作業服を着ているが、月光に照らされた彼の顔と体はとても逞しい。


 彼の息遣い、表情、筋肉、そして優しい心……


「っ!」


 アリスの頭に電気が走る。この電気は、頭から胸、お腹、そして……下のところにまで伝わり、一つの欲求を生じさせる。



 晴翔の子を孕みたい



 そんなことを考えつつアリスは、氷の魔法を解除し、晴翔に憧れの視線を向けた。


 腰が抜けかけて足を挫いた事にも気付かずに。








追記


 総合週間2位になりました!!!

 

 これからも頑張って書いていきます!

 

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