紅い

鳥谷原 菜月

お誕生日おめでとう

「お誕生日おめでとう」

そう言って私たちの会話は始まった。


何気ない一言だった。そんなに仲良くはなかったけど私の自尊心を守ためだったのかもしれない。きっと嬉しいかなと、そう思った。深い意味なんてなかった。だけど、仲良くなって話してみたいという憧れはあった。


「ありがとう」

そう返ってきた返事に私は「ううん」って返そうとした。けれども彼から先にもう一通の返信が来た。「もっとみんなと喋っていいんだからね!笑」

私は人見知りで新しく学校に来たばかりだった。私はその返事にクスッと笑うと「うん、ありがとう!笑」と返事をした。

私はよく、話す人によって「w」や「笑」を柔軟に変えている。柔軟性が良いというのか人に合わせてしまう人なのかはわからない。しかし私は自然に彼に合わせた「笑」をキーボードに打っていた。

それから私たちは毎日のように話すようになった。

学校で会うといつもお互いはにかんだ。そして手を振った。それから「今日の宿題やった?」とたわいもない会話をした。



私は先月父の転勤で、引っ越したばかりだった。知らない土地に知らない人々。新しい家にすぐには慣れない学校。中高一貫校でグループができてしまっているという事実がさらに私を不安にさせた。

中井 陽とは越してきたばかりの時に挨拶をしに行った。同い年でマンションが同じで、学校も同じでクラスも一緒だった。学校に行くバスも一緒で、親は私に「陽くんと仲良くしなさいね」と私の母は言った。親同士が仲良くなるのも私たちもすぐに仲良くなった。


初めて陽に会った時のことは緊張と不安であまりよく覚えていない。よろしくって笑顔で言われたっけ。


私が陽を好きになるのに時間はあまりかからなかった。

毎日メッセージで話し、毎日顔を合わせて、距離の近さに私はとにかく喜んでいた。私と陽の母同士が仲が良く、母を伝って聞く陽の話はいつも私を満足させた。そうして、その話を、「私のお母さんから陽のお母さんから聞いたみたいなんだけど」と、陽にその話をして、陽を恥ずかしがらせるのも好きだった。

陽からのメッセージを見て喜んでる自分に気づき、恋をしていることに気がついた。久しぶりだったのかもしれない、自分から人を好きになるのは。私は普段から好かれてから好くことが多くどこか新鮮だった。

少しのことでも顔を赤らめる自分が恋をしているということを再確認させた。

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紅い 鳥谷原 菜月 @canolaluna

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