第24話 暗躍
リシュエルから軍資金の融資を受けたレイエン帝国は、瞬く間に軍備を整え、ただちに南下を開始した。
同時に、レイエン軍の武装を装ったアバドンの分身が要所で混ざり、エブヴン軍へ大打撃を与えていた。
これによりレイエン軍は前線を破竹の勢いで一気に押し上げ、エルヴンの各地方を飲み込んで行き、残るはいよいよ王城のみというところまできていた。
明日にも城攻めというところで、国の重鎮が揃った天幕では軍儀が行われていた。
しかしこれまでの快勝ぶりに誰もが浮き立ち、軍儀と言うにはいささか弛緩した空気が流れていた。
「いや、さすがはジュウラスを降しただけはある。こうも容易くエルヴンの軍を切り崩してしまうとは」
エスデルクがアバドンへ、掛け値なしの称賛を送る。
「エルフどもは魔法こそ厄介ではあったが、ジュウラスほどの強靭な肉体がない。懐に入り込めば、一撃で食い破れる程度であったからな」
「それこそ我がレイエン帝国に足りぬものであったのだ。対魔術付与の装備は用意できても、戦況を引っ繰り返せる傑物がいなかった。アバドン殿には感謝せねばな」
レイエンを強国たらしめていたのは、高品質の装備を大量配備した、物量戦法あってのものであった。守備力は魔界随一と言っても過言ではないが、皇帝自ら言うように、攻撃力は他国に一歩譲るものであったのだ。
しかし攻撃力を欲しいままにしていたジュウラスは沈み、その遺産で強力な装備が量産され、新たに兵に配備されている。
そして、多彩な魔術で前線を維持していたエルヴンの王城も、今や目前。
真の意味で強国と言える日も近かろう。
「現在我が軍はエルヴン王城を隙間なく取り囲んでおりますが、ここからが本番と言っていいでしょう」
騎士団長ハルトマンが、地図上の駒を動かしながら解説を始める。
「正面の城門には
「問題あるまい」
「は?」
説明を中断されたハルトマンは、憤るよりも、不思議そうな目でアバドンを見た。
「もしやこの状況を打破できる策をお持ちで?」
あるのならば言ってみろと言わんばかりのハルトマンに、アバドンは端的に返した。
「策などいらん。近寄って櫓をへし折れば事足りよう」
「な……」
「それができれば苦労はないが、貴公ならやれれると言うのだな?」
言葉を失くしたハルトマンに代わり、エスデルクが問う。
「無論だ。ここまで来たのと大差はない」
前線を押し上げる際、関や砦などの要衝は、全てアバドンが落としていたのだ。説得力に溢れる言葉であった。
「皇帝陛下。よろしいですか」
それまで沈黙を守っていたリシュエルが、不意に口を開く
「む。何かね、リシュエル殿」
「ここまでは計画通り、我等は陰に徹し、あなた方に花を持たせるよう進軍してきました。ですが、王城攻め。1番槍は我等に譲って頂きたいのです」
その言葉に、天幕に詰めた将校達からどよめきが起こる。
一番槍とは戦士の誉れ。それを余所者に譲れと言う。
「……成程。我々は踏み台であったということか」
いち早く意図を把握したエスデルクが、苦笑交じりに問い返す。
「融資の担保はここで返せということなのだな」
「正直に言えばそうなりますね。エルヴン王家こそ我が怨敵、我が獲物。この手で討ち取らねば気が済まない。皆様には周囲を固めて貰い、我等を存分に暴れさせて頂きたいのですよ」
リシュエルは淡々としながらも、背後に炎が見えそうな程の怨念を醸し出していた。
「もちろん援護は不要ですし、我等が負けた暁には采配はお任せします。ただ、最低でも魔術部隊は壊滅させますので、後の事は楽だと思いますよ。そちらにも損はない話かと」
リシュエルが流し目を送ると、アバドンが大きく頷いた。
「異論があろうとなかろうと、今からの城攻めは我がアンデッド兵5万を投入します。死にたくなければ手出し無用に願います」
その場の誰もが凍り付く程に。
リシュエルの表情は修羅の笑みに染まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます