第6話 再会
土曜日、無くなりかけてるノートの紙の補充のため、地元のお店に来ていた。
このお店はメインはDVDや漫画、CDのレンタルであり、店の奥の一部が文房具エリアになっている。
入り口から入ると、店内にはシャートンの曲が流れていた。さらには一番目立つ入り口前でシャートンがランキング1位を取っていることを宣伝するビデオ広告まで映っている。
本当に凄い人気だ。
既に自分はネットで注文済みだが、CDの発売が決定したためらしい。シャートンの説明が書かれた紙のパンフレットまで置かれていた。
何気なく手に取り、開く。これまでのネット上での活動履歴や、再生数順に並んだ曲達が載っていた。
もちろん1番上はバズった最新の曲。全部見てみたけど、やはりあの幻の曲はない。消されている曲は対象ではないということか。
(それをまさか、山田さんが持ってるなんて……)
クラスの女子からは嫌われることを覚悟して発言したのに、山田さんから慕われ始めた時はびっくりした。
ただ想定外の申し出だったけれど、月曜日が楽しみだ。山田さんもシャートンのファンみたいだし、これから色々話していけるだろう。
期待に口元が緩む。一体どんな曲なのだろうか?
「あれ? 潤くん、だよね?」
「え?」
背後からの声に振り返る。特徴的な色素の薄いグレーの髪色。縁の茶色いお洒落なメガネ。記憶にあるよりも幾分か垢抜けている。
「愛理ちゃん……」
「よかった。やっぱり潤くんだ」
俺の反応に確信したようで、目の前の女の子は薄く笑みを零す。
川内愛理。同じ中学の同級生で少しオタク気質な女の子。そして、俺が中2の時にフラれた相手だ。
フラれてから疎遠でほとんど話していない。地元だし、会う可能性は低くない。だけど正直あまり会いたくはなかった。
「久しぶりだね」
「うん、久しぶり」
上手く笑えているだろうか。笑みは引き攣っていないだろうか。手先が少し寒い。
「なにしてるの?」
「シャートンの宣伝が凄かったから見てたんだ」
「シャートン、ね。今流行ってるよね」
「愛理ちゃんも知ってるんだ?」
「テレビでいっぱい流れてくるからね。いい曲だし、私は好きかな」
ふわりと軽い微笑みが愛理ちゃんの顔に浮かぶ。ああ、変わってない。
少し垢抜けた大人っぽい彼女の表情が昔の彼女と重なる。
「そっちは?」
「私は『戦国大名大戦』の小説版が発売されたからそれを買いにきたの」
「まだ好きなんだね。全然変わってない」
「飽きるわけないよ。大好きなんだから」
一年以上前、彼女と話すようになったきっかけが『戦国大名大戦』というゲームだった。
俺はゲーム自体が好きでハマっていたが、彼女はそのゲームに出てくる達のキャラクターのビジュアルが好きでハマっていた。
たまたま彼女の鞄につけていたキーホルダーから話が広がり、それが仲良くなるきっかけになった。
「よかった。普通に話してくれて」
「え?」
「ほら、その、あの時以来あんまり話さなくなっちゃったから」
「そう、だね」
視線が交わり、彼女のぎこちない笑みが脳裏に焼き付く。そうだった。告白した時もこんな表情をしていた。
はぁ。なんで俺は忘れていたんだろう。恋愛とかもううんざりだと思っていたというのに。
女子に近づかないようにしよう、そう入学前に決めていたじゃないか。
愛理ちゃんとの過ごしてきた関係が、今の山田さんと重なる。同じ趣味のきっかけ。もしかしたら仲良くなれるかも、なんて考えていた。
自分自身、仲良くなった女の子のことが好きになりやすい節がある。その結果が今、目の前の彼女との距離感だというのに。
あんな経験したくないなら、期待してしまうような関係性は築くべきではない。恋愛なんてもううんざり。
少なくともこれ以上山田さんと近づかないように気をつけないと。
女子からは離れて過ごす。そう決めたのだから。
「潤くんは、まだ『戦国大名大戦』にハマってるの?」
「前ほどは熱中してないよ。時々遊ぶくらいだね」
「そうなんだ。流石にゲームは発売して時間経っちゃったもんね」
どこか懐かしむような声。一瞬だけこっちを見る瞳が遠くを見るように透ける。
「少し、潤くん変わったね」
「そう? 自分としてはそこまで変わった気はしてないけど」
「ううん。変わったよ。大人っぽくなった。落ち着いている感じでかっこいいよ」
「……そう」
対して意味のない言葉。そんなことは分かっている。だけどその言葉に昔、何度振り回されたことか。
やっぱり女子と近づくとこういうことがあるから嫌だ。
「また今度話しようよ。今もメッセージアプリはやってるでしょ?」
「うん。変わってないよ」
「分かった。今度メッセージ送るね」
愛理ちゃんはスマホを出して、なにやら細かく画面を弄る。細い指先が動いているので、何かメモでもしているのだろう。
今更連絡が来たところで、すぐに切って終わりだ。多分社交辞令だろうが。
久しぶりに話した愛理ちゃんとの会話は自分でも驚くほど冷めたものだ。なにか心躍るようなことは一切ない。
さっさと別れて紙を買いたい、ぼんやりそう考えている時だった。
「あ、そういえば潤くんって東高校だったよね?」
「そうだけど」
「じゃあ、山田茜って人知ってる?」
----彼女の口から隣の席の山田さんの名前が出てきた。
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