☆完全スリム化万能おかず

すどう零

第1話 商店街の老舗店が招いたサプライズ

 私は今、還暦過ぎの六十一歳。

 まあ、こう見えてもベビーフェイスのせいか十歳は若く見えるし、関西の素人参加番組にもなんと三回も出演させて頂いた経歴があるんですよ。

 名だたる芸人さんとのトーク、漫才大賞を受賞した芸人ともハグしてもらったこともあるの。

 女優の松たか〇と松嶋菜々〇に似てるって言われるわ。あっ、これ嘘じゃなくてホントよ。


 私、二十二歳の頃までスリム体形だったの

 身長163㎝で体重50キロ前後だったけど、やはり、お酒と油もののせいで太り始めたわ。

 そして、四十歳から肉体労働を始めてからは、なぜか食欲全開になりますます太り出したといっても、ひどい肥満体型ではなかったわよ。

 でもサイズはいつも3L専門。

 もちろん、健康診断のたびに高コレステロール、高中性脂肪を注意され、このままでは糖尿病になってしまうかもしれないなどと、脅される始末。

 四十年間飲んでいたお酒も卒業し、シュークリームもやめて、なんとかしなきゃと思ってる矢先、地元の商店街で思わずレシピのアイディアが浮かんだの。


 私が毎日通っている、粉浜商店街は他と比べて、まだまだ活発な商店街で、出店とかも多いの。

 雑誌にも載った四代目井〇豆腐店の豆腐は、高級な大豆を使ってるせいか香ばしいし、どんな食材にもぴったり合うの。

 私は焼き豆腐をいつも買ってるわ。木綿豆腐に焼き目をつけているので、ギュッと旨味が凝縮されていて、食べ応えがあるの。

 それと、なんと創業五十年の漬物屋で買う、日本製キムチ。

 辛くもなく、匂いもせず、焦げ付かないのでまさにお助け日本製キムチ。

 私は豆腐とキムチをフライパンで焼いて食べることにした。


 ん、意外に美味しい。キムチは身体が温まるし、豆腐はお通じにもいいし、カロリーなど気にする必要なし。

 食べだして三日目に、やみつきになっちゃった。

 それと同時に、今まで中華料理店でテイクアウトしていた餃子が、なぜか油濃く感じられるようになっちゃった。豆腐がもたらした奇跡ね。

 それにいろんなおかずーたとえば先ほどの餃子、えのきだけと白菜の煮込み、鮭やサバ、干しエビなどを混ぜると、本当に一品物のおかずになって、毎日食べるほどヤミツキになっちゃった。


 十日たった頃、通じがよくなったの。

 硬いコロコロ便が三回でた後、バナナのようなソフトな便がでるようになったわ。

 それが継続して二週間たった頃、ズボンがブカブカになって、足のサイズもいつもかぶっている帽子のサイズも小さくなっちゃった。

 そう、自然と痩せていったの。

 もう毎日食べていた揚げ物も、牛肉、豚肉も必要なくなったわ。

 そのせいで、胃腸が活発になったのかな。


 私は五年前から、更年期障害真っ最中だったの。

 肉体労働をしているけれど、商店街までの十五分の道のりがしんどいと思うほどだったの。しかし、身体が軽くなったせいか、不思議と元気になり、今では苦にならなくなっちゃった。

 やはり、快活に身体が動くってラッキーなことね。


 そんな私に、不思議なサプライズが舞い込んできたの。

 日曜日、商店街のお菓子屋の前で、おかきを買った帰りに、落ちていた千円札を拾ったので女性オーナーに届けたら、なんと

「本当ならば、商店街事務所に届けなければならないんだけどね、いいよ、あなた正直に届けたんだから、とっときなよ」

「えっ、いいんですか? じゃあ、有難く頂戴いたします」

 やはり正直に届けたのが功を奏したのだろうか?

 

 不思議なサプライズにもめぐり会えた。

 私は、カクヨムに小説を十五作ほど投稿していて、知り合う人にオリジナル名刺を渡しているのであるが、週に五回通っている老舗カフェであるパンジーに行くと、まったく見知らぬ派手な顔立ちと化粧の一見ハーフ風の中年女性が

「私、あなた知ってるよ。近くの定食屋で見かけたよ」

 私は思わず「どこの定食屋さんですか?」

「ほら、この裏のワンコイン定食。もうご主人が亡くなったから閉店したけどね」

 そういえば、三、四年ほど前、一、二度行ったことのある、カウンター中心の小さな定食屋だったな。

 でも、私はその女性には全く一面識もなかった。

「ああ、思い出しました。行った記憶はありますね」

 女性は、まるで私のことを昔から知っているような気さくな口ぶりで

「私、知り合いからあなたの名刺、頂いたの。あなた、小説書いてるでしょう。

 私、結構ファンだよ。昔ながらの現代小説だけど、なんとなく二時間サスペンスドラマを見ているような、情緒があって心にぽっと小さな灯りがともるようなの」

 偶然かな。私は二時間サスペンスドラマの再放送をいつも録画して見ているし、情緒のある作品が好きである。

「ねえ、できたら、私をモデルにして小説書いてくれないかな?

 私、偶数日の九時にこの店に通うからね。私の身の上話、聞いてくれないかな」

「ええ、まあいいですよ。でもこの店、御覧の通り十四人も入れば満席の小さな店だから、誰が聞いてるかわかりませんよ」

 女性はため息をつきながら答えた。

「いいの。私の暴露話といっちゃ大げさかな。今まで隠していたけれど、もう公けににする度胸が湧いたわ。あっ、申し遅れました。私、あやなって言うの。あなたのお名前は?」

「はい、あやかって呼ばれています」

 私は胡散臭そうなものを感じ、とっさに偽名を名乗った。


 それから二日後の午前九時、私は早速いつも通ってる喫茶パンジーに行った。

 すると、その女性あやなの隣に一回りくらい年上の男性が座っていた。

「紹介するわ。この男性、私の新しい彼氏、とっても楽しい人なの」

 私は、その男性の目許を三秒見たとたん、あっと声をあげそうになった。

 左目の下にほくろがある。

 そうだ、私が一度だけ見た、私の親友あやこを騙した詐欺師まがいの中年男である。

 なんでも、繁華街で私の親友あやこと腕を組んで歩く現場を見たことがある。

 得意先のセールスマンで、若干、杉良太郎に似ているが、お腹がパーンと出ていて、いかにも口先だけのずるそうな男、既婚者で別居中にも関わらず、もうすぐ離婚して君と結婚するなどという甘言で、私の親友あやこと男女の仲をもった後、金をせびってきたまさに貢がせ専門の結婚詐欺師まがいの男であるが、派手な顔立ちで笑顔はひきたつものがある。

 途端に、スマホのアラームが鳴り、男はそそくさと店の外へ出た。

 あやなは自慢そうに言った。

「彼って杉良太郎に似たイケメンで、いつもジョークを言って私を楽しませてくれるの。でもなぜか結婚の話はでてこないわ」

 私はため息をついた。またこの男は、今度はあやなさんに結婚をエサに貢がそうとしているに違いない。

 男は戻ってきて、あやなの隣に座った。私はその途端

「あやこさんはお元気ですか?」と親友の名を口にした。

 男は、急に顔色が変わり、逃げるように席を立ってドアを開けて、商店街を駆け出した。あやなは呆れたように、口をポカンとあけ、男を追いかけようともしなかった。私はすかさず

「あの男の人、なんだか深いわけあり。もうこの辺が潮時ですよ」

 

 二日後、喫茶パンジーに行くと、あやなさんが少ししょげ返ったように、スポーツ新聞を読んでいた。私はすかさず

「このとうふ料理、私の手作りです。キムチが入ってるので身体が温まるし、豆腐はお通じをよくしてくれる。それにえのきだけを入れて、旨味をだしてみました。

 そして、スナック菓子も混ぜてみたんですよ。

 これを食べて元気を出して下さい」

 私はタッパーにつめた、私が毎日食べているダイエット料理をあやなさんに渡した。

「わあ、ヘルシーそうね。さっそく今日、お酒のアテにするわ。

 実は私、スナック菓子が大好きなんだけれどね、それだけじゃあ、栄養が偏るわね」

「もうあの男性のこと、忘れた方がいいですよ。これを食べて、心身共に水に流して下さいね」

 あやなさんは、半分つくり笑顔を浮かべながら

「そうね。あなたのサスペンス風の情緒小説を読んで、忘れることにするわ。

 これからも、どんどん書き続けてね。あなたの小説を読んでいると、間違いのない人生をおくれそうな気がするの」

「ありがとうございます。決して筆を折らず、毎日書き続けます」

 これってひとつの人助けかな。少なくとも、あやなさんは、詐欺男にひっかかることもなくなり、人生のドツボから救われ、正常な道を歩めそうである。


 商店街の老舗店が招いた、ラッキーな人助けだったな。

 

 

 

 

 

 

 

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