第79話 黒の騎士
王都セイファート……俺はとうとう戻ってきてしまった。
だけど、果たしてこれが良かったと言い切れるのか……曖昧なままだ。
「どうした、フェイト」
お城の廊下を俺と共に歩くアーロンが声をかけてくる。彼からバルバトス家の家督を譲り受けた。その報告をこの国を治める王へ、しないといけないのだ。
だから、今俺たちはお城へ来て、謁見の間へ行こうとしている。
ここへ来る前に、お城への正門をくぐった時、なんとも言えない気持ちになったものだ。
相変わらず門番は聖騎士ではなく、日雇の持たざる者たちを使っていた。彼らは一様に死んだ魚のような目をしていた。そして、顔などに裂傷を負っていたのだ。
未だに、聖騎士による悪行は続いている。
俺が正門を近づくと彼らは恐れおののき、身をすくめる。そう、俺もまた彼ら……持たざる者たちにとって、脅威の対象と成り果ててしまっていたのだ。
そのことが、虚しく思えたのだ。
俺も持たざる者だったから、その気持ちは痛いほどわかってしまう。だからといって、すぐに何かができるわけでもない。
俺はそれらを振り払いながら、アーロンに返事をする。
「いいえ、なんでもないです」
「そうか……」
そう言いながら、アーロンは俺の髑髏マスクをじっと見つめてくる。
彼は、俺がこのマスクを使って顔……正体を隠蔽することをよく思っていないようだ。これから王に謁見しに行くのだ。
認識阻害機能付きのマスクを被り、正体不明な俺を本当に王に合わせてよいものやらと、ついこの間まで、頭を抱えていたものだ。
そんなアーロンに俺は言う。
「このマスクは取りませんからね」
「わかっておるわ。だがのう……」
「では、お先に」
「お主が先に行ってどうする!? わかった、そのマスクのままで良いから、待たんかっ!」
首根っこを掴まれて、後ろに追いやれられてしまう。さて、遊びはここまでだ。
辿り着いた先には、これ見よがしに大きな扉があった。金銀に装飾されてとても重そうで、綺羅びやかだった。まさに王がこの先にいる、そう思わせる迫力がある。
アーロンは俺を横目で見ながら確認を取ってくる。
「準備は良いか?」
「ええ、いつでも」
そう言うと、何故かアーロンがニヤリと笑って見せる。
「ガリアでなにがあったかは知らぬが、なかなか言うようになったではないか。では入るぞ」
中へ入ると、真っ赤な絨毯が玉座へ向かって敷かれており、それを挟んで向かい合うように、聖騎士たちが立ち並んでいた。
なかなかの威圧っぷりだ。皆がわざわざ、バルバトス家が復帰すると聞きつけて、この場にやってきたようだ。それとも、王からのお達しがあったのか……まあ、それは俺にとってはどうでもいい。
分かるのは、一様にアーロンが連れてきた男……つまり俺が一体どういう人間なのか知りたいようだ。聖騎士たちの視線が俺に釘付けなのが、痛いほどわかってしまう。
当の俺は髑髏マスクを身についているので、認識阻害の機能によってどこの誰なのかはわかるはずもない。
僅かにざわめく聖騎士たちの前を通り過ぎながら、玉座の前まで歩み、そして膝をつく。目線の先の玉座は薄い布によって締め切られており、王がどのような顔をしているのか、性別すらわからない。
その幕の前には、王を護るために二人の騎士が槍を持って立っている。頭から足先まですべてを隠す真っ白な甲冑は、なんだか異質なプレッシャーを感じてしまうほどだ。
アーロンはしばし頭を下げた後、王へ今までの謝罪を述べた。そして、バルバトス家の今後を話して、俺の紹介を始める。
「この者が、後を継ぐ……フェイト・バルバトスです。まだ、16歳と若輩者ですが、なかなかの……いや、かなりの使い手ですぞ。なんせ、ガリアの生きた天災である天竜を倒して見せたのですから」
俺がアーロンに名前を言われると同時に頭を下げていると、聖騎士たちの方から失笑が聞こえてきた。たぶん、俺が天竜を倒したという部分に反応したのだろう。
彼らの常識の範囲内で倒せるはずもないものを倒したと、アーロンが言ってしまったので、信じることができない聖騎士たちは、笑うしかなかったみたいだ。
挙句の果てには、王の御前だというのに、アーロンが隠居しすぎて目が曇ってしまったのではないかと野次を飛ばす者まで現れる始末だ。
そして、俺が挨拶する間も与えずに、一人の聖騎士が玉座へ繋がる赤い絨毯の上に踏み込んだ。
ん!? こいつは確か……見覚えがあるぞ。ああ、以前にガリアに向かう折に立ち寄ったランチェスター領を治める聖騎士だ。あの時はマインによって空の彼方へ飛ばされていたが、どうやら生きていたみたいだ。
あれだけやられて、まだこんな威勢があるのなら、大したことがなかったのかもしれない。
ランチェスターなんとかさんは、王に向かってとんでもないことを物申す。
「そのような嘘を付く者を王都の聖騎士に迎えれません。どうか、私めに、この者の化けの皮を剥がす役を」
幕の向こう側にいる王は何も返事はしなかった。そして、王を護る白騎士も微動だにしない。それをいいことに、ランチェスターは了承されたと受け止めてみせる。
嫌な笑みを浮かべながら、まさかの行動に出る。おいおい、ここは玉座の間だぞ。やりたい放題にもほどがあるだろうに……。
そう、帯剣を引き抜いたのだ。
見かねたアーロンが口を開こうとするのを、俺は手で制してみせる。
「まあ、この方がいいかもしれません。あの人達には最も理解しやすいでしょう」
それを聞いたランチェスターは甘く見られていると思って憤慨し出す。
「わかってないようだな。私はリット・ランチェスター……五大名家の一角であるぞ。どうだ、わかったか!」
「それよりも、さっさと始めてもらえますか? その引き抜かれた聖剣がお飾りではなければ」
「きさまっ」
大きく振りかぶった聖剣が、俺の首筋に向かって進んでくる。
遅い……遅すぎる。なんて、雑な軌道を描く斬撃なんだろうか。あと、踏み込みも甘いな。
俺は躱すことなく、ノンガードでその斬撃を受け止めた。
ランチェスターは首筋に届くまで、余裕に満ち溢れた顔をしていたが、一変する。
なんせ、己の攻撃は全く通用しなかったからだ。
「バカな……これは……そんなはずはないっ!」
その後も、執拗に俺に攻撃を加えるランチェスター。だが、結果は同じだ。
Eの領域。
この絶対的なステータス格差によって、俺とランチェスターとの間には、別次元と言っていいほどの力の距離がある。
Eの領域のステータスを持つ者を傷つけれるのは、同じEの領域の者だけなのだ。それを持たないランチェスターには、どんなに俺を攻撃しようとも、届くことはない。
それは天竜が生きた天災と呼ばれる由縁でもあった。
「くそっ、こうなったらその正体を見せてもらうぞ」
王の御前で失態を見せたランチェスターは焦って、ご丁寧にも鑑定スキルを使うぞと宣言してみせる。
むざむざと、俺のステータスを見せる理由もないので、ランチェスターの眼球運動を見極める。鑑定スキルを発動する時には、特定の目の動きをするからだ。
俺は発動に合わせて、魔力を発散する。これはアーロン直伝の鑑定スキルを無効化する技だったが、
「ギャアアーーーッ」
聞こえてきたのは、ランチェスターの悲鳴だった。彼は両目を押させて赤い絨毯の上に屈した。
俺の放った技は本来なら、相手の視力を一時的に奪うものだったが、Eの領域に達した魔力がそれだけでは許さなかった。
ランチェスターの両目が吹き飛んだのだ。
俺はそれを見ながら、黒剣を引き抜く。
まだ終わってはない。ランチェスターが俺を試したように、今度は俺がランチェスターを試すのだ。
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