第21話 幽かな希望が湧く
先ずは桜木が動揺した。夕紀は来たかと待ち受ける。当事者の美紀はこの時には頼み事をうっかり忘れたように、ばあちゃんからの電話だとホイホイと取る。
ばあちゃん元気、とさっき聞いたにも拘わらず美紀は、はしゃいでいる。
相変わらず元気ね、と受け答えする美紀を注目する二人は、次第に苛立ちを募らせる。とうとう夕紀が道子さんの動向を聞かれてやっと本題に入ってくれたかと一息入れる。
「それでばあちゃん朝一で頼んだ件はどうだったの行ってくれたの」
「それはもう早速に電話してお話を伺うと家系図があると言われて直ぐにお邪魔して見せて貰ったのよ」
「それでどうなったの」
と美紀は二人にごめんと片合掌の仕草をして話を伺うと、二人にも聞こえるようにスピーカーをオンにした。
「説明を聞くとどうも
桜木と夕紀は俄然色めきだった。
「でもその昭雄さんは道子さんどころか祖父の妹さんも知らないからその子供の三姉妹に至っては面識がないらしいのよ、だから道子さんって云う人は確かに系図には載って居るけどどんな人か全く知らずにそれどころか今は存命なのかも判らないって仰って美紀あんたが探している人かはあんたが来て確かめるしかないわね」
「解った近いうちに確かめに行くからその時はまた連絡するね」
と後は先方さんによろしく、と云って電話を切った。
三人は店を出て高野川と賀茂川の合流地点に戻った。そこは鴨川デルタと呼ばれて憩いの場所になっている。三人は合流点の護岸に座った。
「なるほどここは見晴らしの良いとこね」
「ああ、ここに暫く居ると実に気持ちが落ち着いてくるから良く来るよ」
いつもなんか有ると、ここへ憂さ晴らしに来るらしい。
「さてと美紀のおばあちゃんの話だとそんなに遠くない親戚らしいけれど交流は祖父の代で途絶えているらしいから向こうもそんな親戚が近くに居て驚いていたそうだなあ」
「それはばあちゃんも驚いていて感謝されたそうだから来てくれればこれで少しは親戚づきあいが復活出来るかも知れないと云っていたから案外にちゃんと話がつきそうだけど……」
「問題はいつ行けるかだが早いに越したことはないが夕紀はどう考えてる」
「先ず行く人数が多いと車の方が安上がりで待ち時間や乗り継ぎを考えると便利だわね」
「でもこの三人は免許持ってないし米田もそうだが北山と石田は持ってるけど六人乗りの車だとレンタカーになるが電車とどっちがいいかだ」
先ずはみんなの都合を聞いてみることにして桜木とは別れた。
夕紀の家にはお父さんの車はあるが、店は閉められない。お母さんのは軽自動車で運転手を除けば三人か、それなら電車にするか、米田も来るらしいからやはり車か。そこでお父さんの車をお母さんが運転すれば、五人乗りで今の米田を入れたメンバーで行けそうだ。
「美紀、取りあえずお母さんの都合を聞いてみるけど来るか?」
「近いの」
「この近くの洋菓子のお店にパートに行ってるのちょっとそこの売り上げに協力するか」
と二人は歩いて行くことにした。
「ねえ、ひとつ桜木に聞きたい事があるけど……」
ホウ、やっと告白する気になったか。
「どうしてあいつはこんなにあたしたちの活動に頭を突っ込むの」
ハアと気が抜ける。
「何度も言ってるじゃん四十年前の恋がどんなものかって」
「それって神代の時代から突き詰めれば同じじゃん」
「まあそりゃあ人を好きになる恋に昔から変わりはないけれど中身は千差万別でパターンは違うじゃん」
「だから桜木はそれは口実に過ぎずなんか他に目的があると思わない。それが判らないとあの本は借りにくい」
「でもあの本を勉強すればあいつも気が変わるかもよ」
そうかなあと考えていると夕紀はあのお店と顎で示した。
店に行くと、なに珍しいわね、と母に云われて話があると云って二つショートケーキを買って、大学の休憩場所で待ち合わせした。そこで自販機で飲み物も買って長椅子に座った。
「ねえ夕紀、桜木君って丹後の網野って云ってたけど実家は何やってんの」
「それがよく分からないのよねただ琴弾浜の近くらしいけど」
なにその浜は、と美紀は
「砂浜を踏むとキュキュッと音が鳴るのそれだけ砂が汚れていない証拠だって自慢していた」
「なるほど、あ、お母さん来たらしいはねじゃああたし帰る多分みんなは車の都合に合わせるからよろしく」
と丁度ケーキも食べ終わり、引き上げるのと入れ替わるように、すれ違いざまに美紀は挨拶して帰った。
「さっきお店に来たあの子は大学の友達なんか」
どうやら母とはそんな挨拶をしたらしい。三浪は嫌だと云う弟の話をして先ず弟の秀樹には自立させるべきだと母を説いた。これには半ば母は諦めているようだが、それより何の用かと単刀直入に切り込まれた。
先ずは孤独死したおばあちゃんから順序を追って説明して、車の必要性まで辿り着いた。それで何なのとハッキリ言え、とばかりに絡んでくる。
「それで島根県まで車の運転を頼みに来たんかしかも
「お父さんから借りるのはあたしだから」
「でもあんたは運転出来ひんさかいなあ、あの人は店があるさかい結局あたしが全部やらなあかんがなあ」
母の父への空元気もええ加減にして欲しい。そしたら何でしょっちゅうお父さんの店へやって来るんよと言いたい。それを言うとあれは息子の相談に行っているのよと言われる。まあ今は「そうね」と低姿勢を貫いてご機嫌取りに励んで、やっと了解してもらった。後はその日付にみんなが合わせられるかだ。
「ありがとうお母さん」
「遊びと言ってしまえばそれまでやけどあんたが勉強してる人間学の一環やと聴けば出来るだけ手を貸したりたいけどあんたらの都合もあるけどお母さんも仕事があるさかいなあ」
それを言われると辛いところだ。でもそうしたのはお母さんだ。
「お母さんも離婚しなけゃあそんなに働かなくても良かったのに」
「しょうがないやろう気に入らないんだから」
「じゃあなんでお父さんと結婚したの」
「そりゃあ恋したからよ」
「じゃあ何で別れたの」
気に入らないで片付くのなら恋って何なの、今はどうして会いに来るのと問えば。
「あの時は気が合わないからと思ったけど、この年になると合わない所は合わすんだと悟っただけよ」
「そんなの恋じゃあないッ」
でも恋は生き方によって変わるか。人生も千差万別だから、思案するより自分の思い通りに生きれば良いのか、と夕紀は両親を見て考えさせられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます