第14話 六月二十五日②

 人は瞬時に変化するというのは難しい。漫画の主人公は突然新しい技を身につけることができるけれど、現実はそうではない。だからこそ、期間が開く夏休みがイメージチェンジの最大機会たりえる。

でも時には刹那に人を変えてしまうものもある。

マイナスな変化と言うのは、人間に影響を与えやすい。

例えば、人は試験に備えて一夜漬けしたこともその役目を終えれば、すぐに忘れてしまうものだし、怪我をするのは一瞬でも、怪我を治すのには時間がかかる。

 人の性格はそうそう変わらない。一念発起して「明日からいい人間になろう」としても一朝一夕ではなりえない。その変化のための時間を与えるための禁固刑と考えると腑に落ちやすい。

 僕の場合、マイナスの変化と言うには元々の人間性はプラスとは言えないものだったし、

プラスの変化と言うには喜ばしい事にも思えない。

だから、今の状態と言うのは特殊で異常だ。いい事とも悪い事とも言えない玉虫色の現実。

僕の実情。

それでも僕の心に大きな変化があったことは確かで。

だから、僕はこれまで存在を恨んできた数学と言いう名の悪魔に、今手にしているとは言い難い魂を売ってこう表現しようと思う。

 僕はプラスにもマイナスにもなっていない。

ただ、零に戻っただけに過ぎないのだ。

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