傀儡の輪廻
八敷 燎
第1話:誘い
人は愚かで醜いと思う。
誰かを阻害することで結束し、共通の仲間を作ることによって安心感を得る。
自分は一人ではないと常に安堵を求めるのだろう。
一人にされた人間の気持ちなんか知らないくせに。
肌寒い午後。
夕焼け空の下を歩く少女が一人。
お気に入りの鞄を肩から
一歩一歩と、自身の足が前に進むのを眺めながら一つため息をつく。
体が重たい。
ここに来る前に起こった、いや、それ以前からも続いているトラブルが原因だろう。
何度も何度も頭に浮かんで、考えないようにすればする程出てきてしまい胸が苦しくなる。
ずっと鞄の紐を握っていた両手で、頬を軽く叩けば悪い思考を消し飛ばす。
『ふぅー……大丈夫、私は大丈夫』
いつものように言い聞かせれば、癒しを求めて周囲に視線を向ける。
とは言っても、人も居なければ建物を民家が
正直都会にこんな自然があるとは思っておらず驚いた。
大学に通うため引っ越してきて3年目にしての新事実だ。
地元と重なる景色に酷く
帰路に着くために再び足を歩み出そうとした時、ふと視線が止まる。
田んぼの中にある小さな山。
何故そこだけ、と思うような景色だが、不思議と最初その山の存在を認識出来なかった。
『あんな所、あったんだ……』
自然と足がそちらへと向かう。
少しばかり高鳴る気持ちを感じつつ
本当に綺麗に草木に囲まれており、一箇所だけぽっかりと穴のように
階段を見上げればくすんだ赤い鳥居が見え、神社だということに気付く。
神社は嫌いではない。寧ろ好きだ。
しかし、神社にも相性があり近寄りやすかったり近寄りがたかったりする。
ここは引き寄せられやすい場所のように感じる。
しかし、何だか胸騒ぎがする。
上ってみたい気持ちはあるものの、
体を反転させ畦道の方へと視線を向けた時、目の前の光景にきゅっと心臓が縮み上がった。
畦道の真ん中に何者かの姿があったのだ。
何者か、と言っても明らかに人では無い。
真っ黒で背が二メートル以上はあるだろう、その異質なモノはクネクネと左右に揺れている。
気味の悪い光景に背筋が冷たくなった。
一刻もその場から離れたいのだが生憎一本道であり、他の逃げ道は背後の階段しかない。
改めて階段を振り返るが、やはり気が引けてしまう。
【縺翫>縺励◎縺】
『っ……!』
耳元で聞こえた気持ちの悪い音と、首筋にあたる生暖かい息。
全身に悪寒が走ったと同時に、そのまま一目散に階段に向かい走る。
苔と枯葉に覆われた石の階段を駆け上がる。
手すりという支えはあるものの、元々運動とは無縁で持久力の無い体はすぐに悲鳴を上げてしまう。
しかし、止まれば危険というのを本能的に感じているからこそ、意地でも止まることが出来ない。
なんとか、あと少し…。
頂上の鳥居が目の前に迫った時、足首に触れる感触に足を止めてしまった。
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