ミイ

雨上がりの空

ミイ

「先生、お腹が痛いので保健室に行ってもいいですか?」


初めて先生に嘘をついた。


私の前の席の、佐伯君が学校を休んで今日で2日目。

こんなに続けて休んだことなんて無かったから、亜香里は気になって仕方なかった。




休み時間になって、先生が保健室に来た。


「今お母さんに電話かけたら、お父さんもお母さんも仕事ですぐに来られないそうなの。もう少し保健室で待ってる?」

「家がすぐ近くなので歩いて帰ります。」

「そう?鍵はあるの?」

「はい、持ってます。」

「じゃあお母さんに電話してくるから、帰る準備しててね。」


当時は時代的に今ほど過保護じゃなかったので、子供だけで家に帰すのは普通だった。




佐伯君の家の近くの公園に来た。

(あ、佐伯君だ!)

一生懸命何かを探しているみたいだった。


話しかけたらきっとビックリするよね。

でもせっかく早退したんだしと、思い切って声をかけた。


「佐伯君、何してるの?」

「里山?お前こそ何でいるの?」

「ちょっとね。早退してきちゃった。」

「そうなんだ。」

「何か探してるの?具合悪そうにも見えないしズル休み?」

「ズル休みっていうか…実はうちの猫が一昨日の夜から居なくなってさ。ずっと探してるんだけど見つからないんだ。」

「じゃあ一緒に探してあげる!」





いつもならこの公園でフラフラしてるみたいだけど、ここには居ないみたい。

猫が行きそうな所を佐伯君と一緒に探して歩く。


「ここもミイのお気に入りの場所なんだけど居ないなぁ。どこ行ったんだー。」

「たまに居なくなるの?」

「こんなに帰ってこないのは初めてだよ。事故に巻き込まれてなきゃいいけどさ。」




辺りは薄暗くなる。かれこれ4時間近く探したが、ミイは見つからなかった。


「見つからなかったなぁ。さすがに明日も休むわけにいかないし…。」

「私が探す!任せて!」

「そんなの悪いよ。」

「いいのいいの。今まで真面目に学校行ってたんだからさ。うまく休むから。それにミイお腹空いてるかもしれないし心配だよ。」





「亜香里、じゃあ行って来るね。ご飯は台所に置いてあるから後で食べて。何かあったら電話ちょうだいね。」

「分かった。行ってらっしゃい。」


ズル休みは成功した。


布団からさっき使ったカイロを取り出す。

(いい感じに体温計上げてくれたカイロ、ありがとね。)


朝ご飯を食べて、出掛ける準備をする。

「そうだ、写真。」

預かったミイの写真をポケットに入れて、家を出た。





「灰色で、体はそんなに大きくなくて、このささみが好物か。」

右手に写真、左手にささみを持ち、ミイを探し始める。


「ミイー出てきてー!どこにいるのー?」

「ミイお腹すいたよね。ささみ持ってきたよ。」

「ミイー出てきてちょうだい。」


昨日探した公園、別の公園、狭い路地、大通り。猫が行きそうな所を探すが、野良猫すらいない。


「どこにいるんだろう。無事だといいけどな。」




少し遠くの公園に来て、さっきコンビニで買ったおにぎりとお茶で昼休憩をする。


食べ終わり、ゴミをまとめてカバンに入れ、よいしょと立ち上がる。

公園の時計を見るともうすぐ14時になる所だ。


「探さなきゃ。おーい、ミイー出ておいでー!」




ミャー…





「ん?今何か聞こえた。ミイーいるの?出てきてちょうだい!」


今度は何の反応も無い。


植木が並んでる所に行き、隙間を覗き込む。

何度も中腰になり、無数に並ぶ植木の隙間を探す。


半分位の所まできた。覗き込むと、微かに尻尾らしきものが見えた。

急いで立ち上がり、背伸びをして植木の裏を覗く。


そこには、弱々しく横たわるミイがいた。


「ミイ!」


植木に服を引っかけながら、ミイの側に行き優しく抱きかかえる。

これは、まぎれもなく佐伯君の猫のミイだった。


「良かったぁ。見つけたー。」


その場にペタンと座り、ささみをミイの口に持っていく。

よっぽどお腹が空いてたのか、あっと言う間に全部食べてしまった。




「おーい、里山!ミイ!」


佐伯君だ。学校が終わって一目散に来たんだろう。雨に当たったかのように、汗で髪の毛がびしゃびしゃ。


「良かったぁ、ミイ。心配したんだよ。」


嬉しそうにミイの体を撫でる。ミイも少し元気が無いが嬉しそう。


「でも良く見つけたな。すごいよ。」

「ミイも鳴いて知らせてくれたからね。ささみのいい匂いがしたのかもよ。」




居なくなる2日前に、佐伯君とミイはそこの公園に遊びに行ったらしい。

そこに居たオス猫とミイが仲良くなって遊んでたらみたいだから、会いに行ったんじゃないかって。


「ミイ、その猫と会えたのかな。」

「どうだろうなぁ。首輪してたし、家猫だろうからな。」




ミイの恋の行方を見守る事にした私たちは、たまにそこの公園で遊ぶようになった。


日差しが強く感じる。本格的な夏だ。

小さく光る首輪の鈴の音が心地よい。


ミイはすっかり元気になり、嬉しそうに走り回る。でも時々寂しそうな顔をするのは気のせいかな?

早く会えるといいね、ミイ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミイ 雨上がりの空 @ccandyy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ