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「あずちゃん! だめ! 危ない!」
俺の腕と足の危機を救ったのは、慌てたように梓ちゃんの腰を抱えてドアから引き離した要さんだった。
「だって、かなめが、」
梓ちゃんは、らしくもなくきんきんと感情をむき出しにして声を張り上げた。両手でまだドアにしがみつき続けている。
「俺はいいよ。それより、大丈夫? すごい音してたけど」
案外落ち着いた様子で梓ちゃんを抱え込み、要さんがドアを全開にして俺の顔を覗き込んでくる。
「平気、です。」
腕も足も、ドアの締め付けから解放された途端にとてつもない痛みを訴えてきていたが、俺はなんとか平静な顔を取りつくろった。
梓ちゃんはそのやり取りを聞いてはじめて、俺の身体の一部をドアに挟んでいたことに思い至ったらしい。
「あ! ごめん!!」
要さんに猫の子みたいに抱きかかえられたまま、彼女は俺の顔を泣きそうな目で見上げた。その足は地につかずぶらんと垂れ下がり、つま先がばたばたと床を蹴っている。多分、俺に駆け寄って怪我の有無の確認をしようとしてくれているのだろう。
なんだか、なにもかも間が抜けていた。俺は急に気抜けして、その場に座り込んでしまった。足も腕も動くので骨に異常はないのだろうが、ひびくらいは入っているような気もした。とにかく血の打つ早さでどっきんどっきん脳味噌まで痛くて、脂汗が止まらない。
「平気じゃないでしょ。」
梓ちゃんを解放した要さんは、今度は俺に肩を貸して立ち上がらせてくれる。挟んだ足に体重がかかって、蹴りつけられた犬みたいな悲鳴が漏れた。
「歩ける? 取りあえず中入って。」
「歩けます。」
平気です、と、また口の中で呟く。
強がりではない。焦燥感を押しつぶすための犠牲としても、また要さんの家に入れてもらうための犠牲としても、腕や足の骨くらい大したことがないと思った。
それに、俺には自分の身体よりも、要さんのそれの方が気にかかった。
借りた肩には骨がごろつき、体重をかけるのが怖いほどだった。ちょっと強く押したら、空中分解しそうな細さだ。
「ほら、座って。」
要さんは俺をソファに座らせると、多分靴を脱がせてくれようとしたのだろう、俺の前にしゃがみ込んだ。そして、なんで裸足なの、と驚いたように俺を見上げた。
「なんででしょうね。」
そう言うしかなかった。理由を語れなかった。語ったら泣いてしまうから。
そう考えたのは、自分の心の強度へのかいかぶりだったみたいだ。
語りもしないのに、俺は目の前に膝をついている要さんの身体に縋りついてわあわあ泣いていた。もう、自制するとかどうのではなく、気が付いたらそうしていた。
要さんは俺の勢いに押されてよろけたけれど、床に座り直して俺の身体を受けとめてくれた。前回よりまた二回りは痩せた、いっそ痛々しいような体躯で。
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