【△】D&T【∞】 ~見た目は男1人と女2人、実際は男2人と女1人の三角関係?~
Sin Guilty
第01話 『Triangle』
・
2倍や2組――二重を意味する言葉。
時に二重人格に対してつかわれたりもする。
――『二心一体』
・
本来は双子を意味するものだったが、転じて二つで一つになっているものを意味する言葉ともなっている。
――『一心二体』
・
三角形。その形状から金属製の打楽器、体鳴楽器もその名で呼ばれている。
同一直線上にない3点と、それらを結ぶ3つの線分からなる多角形。
それゆえに男女間の特殊な関係を表現する際に使われたりもする。
――『三角関係』
・
限界を持たないことを指すが、記号からは終わりを持たない循環を読み取れる。
留まらないもの、終らないもの、反射が起こり得ないもの――報われないもの。
閉じてしまっている関係。
――?
◇◆◇◆◇
私立
歴史ある古都であり、周辺有数の高級住宅地でもあるその地域が『学院前』と呼ばれるようになったのは、古くからこの御陵学院がそこにあったことがその理由である。
学業に力を入れているのはもちろんのこと、スポーツや文芸方面でもいくつもの部が全国大会常連となっている、地域が誇る優秀な私立進学校。
幼稚舎から大学までのエスカレーター式ではあるものの、中でも特に優秀だとみなされているのは中等部、高等部となっている。
というのも大学もかなり優秀ではあるのだが、高等部でトップクラスの成績を誇った生徒たちの多くが、それぞれの専門分野に優れた海外も含めた外部の超が付く有名大学へと進学するからだ。
とはいえそんな進学校としての実績よりも、御陵学院は『お金持ち学校』としての方がより知られていると言えるだろう。
いわゆる「良家の子女」と言われる子供たちが生徒の大部分を占めており、全国の私立進学校における親の年収平均などという下世話なニュースなどでは、常に上位に位置している。
日本人で『御陵学院』と聞けば、「あー、あの有名なお金持ち学校ね」と返ってくるくらいには全国区で有名なのだ。
その評判に違わず瀟洒な白亜の校舎に照明設備も完備された広大な校庭、最新設備を備えた体育館や屋内型プールはもちろん武道場や弓道場、テニスコートやスケートリンクである『銀盤館』までもが完備されており、定期的に
当然生徒でなければ利用できない、高級学食のメニューなどが話題になることも多い。
高名なデザイナーの手による制服が「可愛い」「カッコいい」と有名だが、その一着の値段を取り上げて騒いでいるのは外野ばかりで、我が子を通わせている当の親たちは歯牙にもかけていないあたりがいかにも、と言ったところだろう。
だが全国区ではなく、極狭い地域的にはなにが「有名」なのかと問えば、今年入学した3人の生徒の名前が真っ先にあげられるはずだ。
もちろんニュースで流されるとか、ネットの記事などで炎上しているという意味ではない。
だが近隣の情報アンテナの高い中学生、高校生であれば噂を耳にしたことは多いだろうし、御陵学院内に限れば教師、生徒を問わず知らぬ者などいない有名人と言っても決して過言ではない。
1人は男子生徒。
名は
1年特進クラス所属。
部活動には参加していない。
御陵学院高等部においては希少種である外部生であり、この春から編入している。
でありながら進学の際にカタチだけは行われる進学テスト=外部入学テストにおいて全教科満点を記録し、同期生の誰も知らない生徒が高等部進学式で総代を務めるという、学院創立以来、初めての珍事を起こしている。
また成績優秀なだけではなくスポーツも万能であり、体育の時間にそれとは知らずに全中出場経験者とテニスでほぼ互角の試合を繰り広げ、周りの度肝を抜いている。
僅差で敗れたとはいえその才能はテニスだけに留まらず、あらゆる種目で突出したパフォーマンスを見せ、まさに「文武両道」の生きた見本の如くなっている。
それに加えて容姿も端麗。
サラサラの黒髪と整った
切れ長で鋭い瞳は真面目な表情をすれば近寄り難さを感じさせるが、つねに人懐っこく微笑んでおり、入学して早々に生粋の内部生たちともあっさり打ち解けてしまっている。
またその交友範囲も広く、昨今よく言われる「スクール・カースト」など、まるでないものかのように振舞っている。
人間勝手なもので、
どれだけお金持ち学校であっても潜在的に存在するそういった「スクール・カースト」は鳴りを潜め、その上位にいた者たちはもちろん、いじめに限りなく近い行動をしがちな中位層たちも
そのことを人知れず匡臣に感謝している生徒も実は数多く、いわばわかりやすく同学年男子生徒たちの人気者となっているというのが現状だ。
当然このスペックで同姓受けもいいともなれば、異性からの人気は語るまでもない。
入学後たった半月の間に上は大学の色っぽいお姉さま、下は小等部高学年の美少女まで、数多くの異性から告白されてそのすべてを断っていても角が立たず、やっかみ交じりとはいえ冗談のネタにされるくらいで済んでいるのは人徳によるものとしか言えまい。
ちなみにその匡臣
有名人の他の二人は女子生徒である。
1人目の名は
匡臣と同じく1年特進クラス所属。
部活はダンス部所属。
幼稚舎からの御陵学院の内部生であり、外資系大手企業の役員令嬢。
父親が東スラブ系欧州人とのハーフであり、自身はクォーターなため日本人離れしたスタイルを有している。
色素の薄いすべらかな肌。
髪は染めてもいないのに金色に輝き、瞳はよく見ると碧味掛かっている。
頭抜けたリズム感と身体能力、そしてその優れた容姿も相まって、学生ダンスの世界では小学生の頃からかなりの有名人であった。
だが今近隣で有名になっているのは、中等部から高等部へとなる春休みの間にもう一人の有名人女生徒とともに、某有名ファッション雑誌に掲載されたからである。
いわゆる読モ――読者モデルというやつらしい。
進学校でもありいわゆる「お坊ちゃんお嬢ちゃん学校」であるにも拘らず、あるいはそれゆえか、御陵学院の校則は『独立自尊』を謳っており、出席や成績の面で問題がなければバイトを含むその手の活動や、化粧や髪形などに関する無意味な制限は無きに等しい。
わかりやすく陽キャ、ギャル系としか見えないその見た目、言動のわりには凜の成績は常にトップクラスであり、そのため両親も学院側も今のところ
当然小等部の頃からとんでもなくモテてもいるわけだが、誰とでも仲良くなるわりにはガードは固く、今のところ誰も交際を勝ち取った者がいない「親しみ易いが難攻不落」な美女として、御陵学院内では名を馳せている。
生まれて初めて、見ているだけでドキドキしてしまう
2人目の名は
他の二人と同じく1年特進クラス所属。
部活は薙刀部所属。
凜と同じく幼稚舎からの生粋の御陵学院の内部生であり、ある意味「お金持ち学校」とみなされている御陵学院の象徴とも言える、本物のお嬢様である。
巨大複合企業体である『九条グループ』現総帥の一人娘なのだ。
腹違いの二人の兄も御陵学院のO.Bであり、若き九条グループの後継者とその右腕として財界で活躍している。
薙刀では全中出場者であり、進学テストでは匡臣に次いでの2位。
他にも一般人が「本物のお嬢様」と聞いて思い浮かべるであろう「習い事」は一通りこなしており、そのどれもが天才と称賛されるほどの結果を叩き出している才媛である。
勉学においても匡臣と同じく全国模試上位二桁の常連であり、成績については三桁上位にとどまる凜を凌駕していると言えるだろう。
それだけに進学試験で匡臣に後れを取ったことを気にしており、入学以降こっそり注目している。
中間試験でリベンジを決めるべく、今までで一番真剣に勉強をしているのは内緒だ。
凜とはまた違った方向で容姿端麗であり、凜が日本人の憧れる西洋美女を日本人フォーマットに落とし込んだ、いわゆる2.5次元系美女だとすれば、静は如何にも深層の令嬢、
大きさでは凜に後れを取るが美しいラインを誇っており、いかにも和服が似合いそうな
だがこちらは「家格」というものを気にする生徒たちの生まれからして簡単に告白することも憚られ、告白を断ったことすらない真の『高嶺の花』と言ったところだ。
そんな静が凛と親しいことはあまり知られておらず、この春休みに発売された某有名ファッション雑誌で「新人読モとそのお友達」として載せられたことで、校外近隣の同世代にも一気に有名になっているのだ。
いつの時代も、タイプの違う美女二人が一緒に居るというのは、他者の耳目を集めやすいものらしい。
現在、御陵学院1年特進クラスにはこの三人ともが所属している。
先にも述べたとおり、たかだか半月余りの間に男子生徒たちの中心となり、多くの勇気ある女性陣からの告白を受けそのすべてを断っている『完璧超人』と噂される磐座匡臣。
小等部の頃から圧倒的な人気を誇り、高校へ進学した後も幾人かから告白されるも、例によって「ごめんなさい」記録を更新している『難攻不落のギャル』と呼ばれている相沢凛。
そして密かに想いを寄せている男子生徒は多いにもかかわらず、未だ誰からも告白されたこともなければ、もちろん自分から告白したこともないという本物の『高嶺の花』とみなされている九条静。
高校生になってからそろそろ一ヶ月が経過し、ゴールデンウィークを目前に控えたこの頃ともなれば、ある程度の人間関係も形成されている。
匡臣を除けばすべて内部生である特進クラスであればなおのことである。
だからこそ、ここ最近で皆が注目しているのは、この有名人3人の人間関係となっているのはある意味当然だ。
男子生徒からしてみれば、外部生でありながらあっさり特進クラスの中心人物になりおおせてしまった『完璧超人』であれば、あるいは『難攻不落のギャル』や『高嶺の花』が相手であっても恋人関係になれてしまうのではないかという、焦りと期待が存在する。
また女子生徒からしてみれば、大学生の色っぽいお姉さまから小等部のおませな美少女まで――もちろん同級生で特攻した
そしてそれは根拠なき焦りと期待というわけではない。
優しく微笑みながら、あるいは冷静極まりない顔で歳上から歳下まで如才なくお断りをしている匡臣だが、時に凛と静と接する際に赤面していたりする。
さすが『完璧超人』とまでいわれるだけあって鉄の自制心を持っているのか、それも一瞬で冷静に立ち戻っているのだが。
これは目敏い女性陣しか気付いていないことだが、確かな事実だ。
一方で誰にでも分け隔てなく仲良く笑っている凜が、時に匡臣に話しかけられてらしくもなく動揺して赤くなることと、誰に対しても一定以上の興味を持っていないような静が遠くからじっと匡臣を見つめて赤面していることがままあることを、これもまた目敏い男性陣だけが気付いているのだ。
特に男性陣にしてみれば、幼稚舎の頃から付き合いのある美女二人が赤面しているところなど終ぞ見たことがなかったのだ。
それがいかにも年頃の女の子らしい視線を向ける相手が
所詮は学生の価値観でとはいえ、『大物同士』のそういう話は噂話のネタとしては最上級のものであることは間違いない。
しかもそれが1対1ではなく男性1と女性2人、しかも互いに意識をしていることを観測可能ともなれば、それはもう盛り上がるなという方が無理だろう。
特にすでに匡臣に当たって砕け済みの
いわゆる対異性戦闘力にそれなりの自信を持った者たちの間で、今最も盛り上がる話題となっている。
もしも本当に三角関係などが成立するのであれば、しばらく1年特進クラスはゴシップネタに困ることはなくなるだろう。
だが誰も知る由はない。
その三角関係が、本当は男性2人と、女性1人で展開されることになることなど。
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