第7話 山に捨てられた女

細く長い煙草を取り出すとライターで火を付けた

「さて、どうしよう」

煙草を吸いながら、山道を降りる


ナンパされて男から「ホテルへ行く?」と誘われた。


顔だけはいい男の車に乗ると山の上のホテルに行く。

自分の車は駅前に置いてある。

軽い気持ちで体を重ねたが、満足することもなく

シャワーを浴びてすぐに帰ることにする


「ごめん、車の調子が悪い」

「外に出て三角表示板を出してくれる?」

路肩に止めた車から、降ろされて後ろに回ると、

車は急発進で山道を下った。


一瞬呆然としたが、怒りよりも不自然さに困惑をした

問題は、自分の車のキーと会社からあずかった通帳だ

レザーバッグにすべて入れてある。


「最初から財布狙いかしら」

警察に紛失届や報告を考えると気が重い。


しばらく歩くと後方から赤いセダンが来て、運転手が

顔を出す。

「どうしました」

野中と名乗る男は、説明を聞くと親身になり

「泥棒ならば、金目のものを盗んでバッグは捨てますよ」

と言いながら、道をゆっくりと走りながら、探している。

「それよりも警察をお願い」と先を急がせた。


もちろん路肩にはバッグは落ちていなかった。


駅前まで行くと、まず自分の車が盗られていないか確認をする

車のキーもバッグの中だ、車も盗難されたら泣くに泣けない

車は元の場所にある。

ほっとして車の中を見ると、助手席にバッグもある。

「あいつの車に置いた筈よね」


記憶違いは無い筈だ、あの男は自分を山に置き去りにした後で

私の車にバッグを置いたのか。

理由がわからないが、バッグの中身は手をつけられていなかった。

盗られたものは無かった。


野中は、私を見ながら良かったですねと連呼している

「助けてくれてありがと、お礼をしたいから連絡して」

電話番号を教えると、野中は名刺を渡してくれた

どうせ体目的だろうが、一回くらいなら許そうと思っていた


「○△商事」

このあたりでは大きな商社だ。

「いいところに勤めているのね」

野中は、テレながら車に乗り込む


翌日に、○△商事まで行く事にする。

昼に行けば、ビルから出てきて会えるだろうと考えた

少し驚かしてあげれば、喜ぶかもしれない。


12時になると、社員がランチのためにビルから出てきた。

野中もいた、ゆっくりと近づいて声をかけた

「野中君、昨日はありがとう」

野中を私の顔見ると、みるみると青ざめた


背後から「野中、ランチはどこにする」

あのイケメンの声だ


私が振り向くと、いきなり毒づいた

「なんでこの女がいる」

叫ぶ声に、OL達が振り返る


私は公園に2人を連れていく。

「それでどんな事情なの」


話は簡単だ、

イケメンがモノにした女を、野中の彼女にさせる作戦だ


野中は女性は苦手で、接する方法がよくわからない

合コンでも、積極的にはアピールできなかった。

イケメンは浅知恵で、お芝居をすることで恋人を作らせようとした


もちろんイケメンは役得もある、ナンパした女性を抱ける。

山に捨てる事で、女性の不安を最大にして、野中をヒーローに

させれば、後は上手くやるだろうと考えた。


失敗点は二つある

私のバッグがイケメンの車の中にあった事だ

レザーバックの中身を見ると、分厚い封筒がある

このままでは、強盗犯人として手配されるだろう

焦って私の車に戻した。


もう一点は、野中が自分の会社の名刺を渡した事だ

被害者の私がアポ無しで、訪れる事を予想できなかった。


この二人は、自分たちの計画が露見したことで

会社からくびにされる事を、恐れていた。


「これで忘れてあげるわ」

顔を爪を立てて叩くと二人の頬から赤く血が、にじむ。

OLからどう思われるのか想像すると楽しい。


私はとぼとぼと、公園から出て行く野中とイケメンを見ながら

爪の手入れをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る