第4話 ミニマム物件

その物件は都心の駅に近く、立地として最高の環境に見えた

狭くてもロフトがある、奇妙な部屋を借りる事にする。


シングルマザーのA子は、娘と共に部屋に入ると

「洗濯機も置けないね」

コインランドリーを探す事にして、引っ越しの段ボールを整理しながら

荷物を配置しはじめる


この部屋は、縦に異常に長いのだ。

ロフトが何段もある感じで、

狭い階段を上りさらに、はしごで移動する。


「若い奴しか住めない部屋だから安いんだな」

年寄りは、こんな急勾配な段差を移動できない。

ロフトもジグザグに配置されている


まるでジャングルジムを下から見上げる錯覚がある

狭くても収納場所は豊富だ

娘は喜んでロフトを上り下りしている

とりあえず3段目まで、布団を引き上げて

そこで寝る事にした。


数日で、彼女は後悔しはじめた

低血圧で体が動かしにくい体質で

朝から下まで降りて、出勤するのがめんどうになる

ならば下の部屋で寝ればいいのだが、

寝る場所すら確保できないくらいに、狭い

「駅近で、空いてた理由がこれね」

ぶつぶつと独り言をいう


娘も小学生なので手間もかからない

ある日

娘が奇妙な事を言い出す

「この上の部屋がとても広いの」

普通の賃貸の場合は、平面図で部屋の数はわかる


しかし立体的なロフトの場合は、広さがわからない。

いつも寝ている3段目から4段目に、はしごで上に登れるが

見てない事を思い出す。


「どの部屋だい」

娘はすいすいと登りながら、教えてくれる

4段目からさらに上へ行く、はしごがあるのだ

はしごを上ると、屋根裏のような部屋にでた


「天井まで登れるんだ」

呆れたように言うと、娘はもっと上にあると言い出す

またはしごを使うと、オフィスビルのような廊下にでる

「違法建築かよ」若干笑いながらも

娘と探索してみる


人の気配はない

ドアもあるが中身は空っぽだ

空きビルのような気もするが、気味悪くなり戻る。

娘は人が居るのを見たことは無いという


A子は、なにかの手違いで隣のビルにでも

つながったと考えた


「ドンドンドンドン」

夕食の支度をしているとドアが叩かれた

不信に思いつつ開けて、後悔をする


別れた男だ

「探したぞ」

B男は凶悪な顔でA子を掴もうとした

すぐにロフトの方に走る


捕まったら最後だ

娘は2段目のロフトに居たが、察して上のロフトに逃げる


自分も追って逃げながら、どこにいけばいいのか絶望感もある

あのオフィスビルまで逃げると、娘が誘導して走る

しかしこのビルは大きいなと、息が切れそうになるが

追ってくる気配はない


ビルは吹き抜けがあるので、窓から下の廊下が見えた

B男は、なぜか下の階を探していた

しばらくみていると降りていくようだ

自分たちは、携帯電話をとりに部屋にもどる。


天井裏へのはしごは、簡単に取り外せた。

時間稼ぎのために、ロフトに置く。

警察に電話して待つ事にした。


「天井裏はないですよ」

怪訝そうな警察官は、A子の話の真偽を疑っている。

たしかに4段目のロフトには、はしごがある。

だが天井が見えるだけで、その上にはいけない。


「パニックで気が動転したのでしょう」

「なにかあれば相談してください」

警察官は帰る。


B男は、その後は見てない。

娘は、

はしごを使うと天井裏にいけると教えてくれた。

はしごは使ってない。

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