素直じゃない実妹の”お兄ちゃん日記”を見つけたら、成り行きで付き合うことになった話。

譲羽唯月

第1話 なあ、玲? お兄ちゃん日記って何?

「ねえ、何見てんの?」


 鞘木悠が普段から聞いているセリフの一つである。

 朝起きると、リビングでショートヘアが魅力的な妹の玲と出会い、軽く睨まれるのだ。


 何か嫌なことをしたとか、そういうことなのだろうか?

 そう思い、振り返り、一旦席に着くのだが、まったく思い当たる節がないのだ。

 もしかしたら、自分が気付かないだけで、妹に嫌なことをしているのかもしれない。


 テーブルには、一応朝食があった。

 嫌われているのに、なぜか、料理だけは作ってくれるらしい。

 不思議でならないが、一先ず箸を手にする。


「なに? 食べないの? だったら、捨てるけど?」

「いや、ちょっと、待って。今から食べようとしたいたんだけど」

「は? だったら、さっと食べたら?」


 玲はツンケンした態度で、ジーっと見てきた後、フンと言った感じ、顔を背ける。


「私、あんたと違って、忙しいし。お風呂掃除でもしてきますから」


 玲は見下すような声色で言い、席から立ち上がった。

 妹はすでに食事を終わらせたようで、リビングから立ち去っていく。

 一体、俺が何をしたって言うんだよ。

 悠は考え込み、不満を募らせ、食事をする。


 妹の作る料理はそれなりに美味しい。

 先ほどまで抱いていた不満感情が薄っすらと解消されていくようだ。


 料理はうまく掃除もしっかりとでき、女の子としては普通に優れていると思う。

 誰かと結婚しても問題ないスペック。

 いや……誰かと結婚とか……。

 悠は心が痛んでしまう。


 普段から弄られているが、妹が誰かと付き合うとか、結婚するとか、そういうのは想像したくなかった。

 なぜなら、悠は玲のことが好きだからだ。


 どんなにディスられても嫌いにはなれなかった。

 むしろ、どんな形であれ、妹と会話できていることに嬉しさを感じていたほどだ。

 変人かもしれないが、妹と一緒に居られるだけでいい。


 血の繋がった関係性ゆえ、結婚とかも無理だろうし。そもそも、付き合うとかになったら、絶対に周りの人から引かれてしまうだろう。

 もし、付き合うとか言ったら、妹から変な目で見られ、睨まれ、いつも以上にディスられるだろう。


 玲を好きな感情。どうしたらいいんだろうか?

 朝っぱらから食事をしながら悩んでしまうのは辛い。


 一日の始まりから暗い事ばかり考えるのもよくないと思い、食事に集中することにした。

 ああ、付き合いたい。

 どうしたら、付き合えるんだ?

 やっぱ、妄想だけの関係にした方がいいのか?


 悠は何度も不満を募らせていた。

 一〇分程度で食事を終わらせ、食器を片付ける。


 今日は土曜日。

 特に学校に行く予定もなく、誰かと遊びに行く予定もないのだ。

 いつもの休みといった感じに、普通で平凡で地味な日なのである。


 ああ、何しようかな。

 こういう時、友人がいれば、相談に乗ってもらえたりとか……いや、言ったとしても、引かれるか。

 モヤモヤとした感情を抱きつつ、悠はキッチンで皿洗いを終わらせた。


 本当に今日、何しようか……。

 一先ず、自室に行ってから考えるか。

 そう思い、キッチンを後に、自室へと向かうことにした。

 が、床に何かが落ちていることに気づく。


「なんだこれ……」


 ノートのようなもの。

 表紙は真っ黒だが、“お兄ちゃん日記”と白色のマーカーペンで書かれていた。


 え? な、なにこれ⁉

 悠は驚きを隠しきれなかった。

 若干引いてしまう。

 悠も妹のことが好きだから、玲のことをとやかく言えないが、驚きの感情が勝ってしまった。


 まさか、あのツンケン発言ばかりしてくる妹が? と、何度も心に訴えかけ、怖かったが、恐る恐るノートをめくってみる。


【今日はお兄ちゃんと一緒に学校に登校しました。本当は手を繋いで学校に行きたかったのに。今日も無理でした。なので、次は絶対に繋げるようにしたいです。できれば、お兄ちゃんの方から、積極的になってくれればいいのに……】


 こ、これって……玲の気持ちなのか⁉

 ちょっと待て……あの妹がこんなことを考えているのか?

 悠はどうすればいいのかわからなかった。


 そんな中、風呂場の方の扉が開いたのだ。

 そして、玲から睨みつけられてしまう。


「何してんの、キモッ、ずっとそこに立ってないでくれない? 邪魔……え?」


 一瞬で、妹の辛辣な言葉のオンパレードが止まる。

 悠が手にしている黒色のノートを目にするなり、玲の強気な表情がみるみるうちに、赤く染まっていくのが分かった。


「きゃ、きゃああああ、な、な、な、なんで、あ、あんたが、そ、そ、それを⁉」


 妹は慌てふためいている。


「いや、ここに落ちて立っていうか」

「え? え? な、なんで?」

「俺も知りたいんだが、というか、この日記さ」

「え⁉ よ、読んだの⁉」

「ま、まあ、ここに落ちていて気になったからさ」

「ば、バカ、な、なんで、そんなの見るのよ、へ、変態ッ」

「いや、妹こそ、変態だろ? だって、一緒に手を繋いで学校に行きたいとかさ。俺ら、血の繋がった兄妹じゃん」

「うううう、そ、そんなのわかってるからッ、か、返してよ、ば、バカッ、死ねばいいのよッ」


 玲は強引に、その黒色のノートを奪う。

 そして、妹は普段見せないような泣き顔を見せ、その場から立ち去って行ったのだ。


 でも、妹も同じ気持ちだったことに、悠はなぜか、ホッとしてしまった。

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