第4話 待遇のわけ

 クララは、何故自分が魔族から好待遇を受けるのかリリンに質問する。今までの好待遇は、クララには、違和感しか覚えないものだからだった。


「私達が世話を焼く理由は、これまでのクララさんの待遇などに同情した結果です。クララさんが、聖女として目覚めて、教会とパーティーから、嫌がらせなどを受けていた事を知っていますから」

「!!」


 この言葉には、クララは少なからず衝撃を受ける。先程、リリンが言っていた『クララの事は、何でも知っている』という言葉は、場を和ませる冗談だと判断していたからだった。だが、今の言葉で、それが本当の事だと判明した。


 クララは、聖女としての力が目覚めた時、元々住んでいた場所から、教会へと連れて行かれた。それは、クララが、十一歳のことだった。突然、親と離されたクララは、教会にて軟禁状態にされた。そこで、聖女としてのあれこれを詰め込まれたのだ。

 その際に、クララが幼いことを良いことにベタベタと身体を触ってくる男もいた。クララは、常に嫌がっていたが、子供と大人では力の差が歴然としており、それらは、無駄に終わっていた。

 そして、一年後には、カルロス達と共に、魔王討伐のために旅に出ることとなった。旅に出て一年が経った頃、クララの聖女としての能力が、魔族に対して、ほぼ無意味である事が分かった。クララに出来るのは、回復用の薬などを製造して、カルロス達に使って貰う事だけであった。


 それが判明してから、カルロス達は、クララに対して、様々な嫌がらせをするようになる。重い荷物を、わざとクララに持たせる事や食事量を減らす事、そして、クララを追放したときに言っていたような肉体関係を迫ってきていたのだ。

そして、クララの役立たずさに、我慢できなくなったカルロスは、三年間旅を共にしたクララを追放した。

 カルロスが、クララを追放したときに、食事を奢ったのは、せめてもの情けだったのかもしれない。


「教会はともかく、勇者達のしたことは、正当的な事でもあると思いますよ。実際、役立たずではあったわけですから」


 クララは、自身の役立たずさに関しては、きちんと自覚していた。薬などを作って貢献はしていたが、それでも本来の役割を果たせていない時点で、役立たずなのは変わりない。向こうの言い方と言い分に、苛つきはあったものの、追放自体には納得しているところもあったのだった。


「それはそうかもしれませんが、勇者達には、他にもクララさんに嫌がらせした意味があります」

「え?」

「単純に嫌がらせをして、優越感を得ていただけのようです。クララさんの身体を要求したのも、征服感を得たいと思っての事みたいです」

「きも……」


 リリンが教えてくれた事に、クララは思わず本音が漏れてしまった。


「そうですね。それ故、我々の間では、あの勇者は、性欲の勇者と呼称しています」

「なるほど……確かに、道行く先々で女性と遊んでいましたしね」

「魔族に対する強さではなく、性欲の方に強さが振られているようですね。正直、勇者の監視係が可哀想です」


 リリンがそう言うと、同時に部屋の扉がいきなり開いた。


「ここに、聖女の幼女がいるとは本当か!?」


 扉の向こうにいたのは、灰色の髪をオールバックに固めて、燕尾服を着た執事のような老齢の男だった。興奮しているため、鼻息が非常に荒い。


「黙れ」


 その男に、リリンがお盆を投げつける。


「ぐごっ!」


 お盆の角が、男の眉間に刺さった。その後、すぐにリリンがベルを鳴らす。すると、他の執事が一人やって来た。


「お呼びでしょうか?」

「その変態を地下の反省房に入れておいてください」

「かしこまりました」


 変態の男は、執事に連れて行かれた。


「申し訳ありません。ここにも変態が、一人いたのを失念していました」


 リリンが、クララに謝るが、クララは反応をしなかった。クララは、今、自分の胸に手を当てて、虚ろな目になっている。


「私って……幼女に見えますかね? これでも、十五歳なんですが……」

「いえ、年齢のわりに成長は遅いと思いますが、幼女には見えませんよ。恐らく、伝達に問題があったのでしょう」


 成長は遅いという事を認められてしまったので、クララの表情は、更に暗くなる。クララの身体の成長が遅い理由は、成長期である時期に十分な食事などを摂れなかった事と軟禁状態や待遇などのストレスにあると考えられる。

それをクララ自身は、知らないので、自分はあまり成長しないと思っている。だが、幼女と間違われる程酷いとは思っていなかった。


「取りあえず、今日は、もう休みましょう。今のリンゴでは、お腹が満たされないと思いますが、先程吐き出してしまっているので、我慢してください」

「あっ、はい……」


 先程から、リリンがクララにリンゴを食べさせていた理由は、今日の分の食事だった。本来は、もう少ししっかりとした食事を用意するのだが、嘔吐直後ということもあって、軽めのものにしたのだ。


「念のため、扉に鍵を掛けておきます。さっきの変態が、反省房を脱出してくる可能性もありますので。クララさんも、勝手に部屋からは出ないようにしてください。あの変態は、あんなですが、かなり強いので」

「はい……」


 さっきの変態は怖いと感じたため、クララは、大人しく部屋の中にいることにした。ただ、探索は続けようと心の中で決める。そんなクララに、部屋のカーテンを閉めていたリリンが微笑む。


「もし、寝られないのであれば、ここに連れてきた時の様にして差し上げますが、どうしますか?」

「?」


クララは、一瞬何のことかと首を傾げたが、すぐに人族領での最後の記憶を思い出す。結果、顔が一気に真っ赤になる。


「い、いえ、自分で寝られます!!」


 クララはそう言って、羽毛布団を被って、眼を瞑った。すると、不思議なことに、それまでなかった眠気が、一気に襲ってきて、すぐに眠りについた。

 小さく寝息を立てるクララの様子を確認したリリンは、部屋の灯りを消していく。


(身体は疲れていなくても、心は疲れていましたからね。ゆっくりとお休みください)


 リリンは、クララを起こさないように部屋を出て、鍵を閉めた。

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