バレットとナイフ
珈色かぷち
第1話 死は救済
この国の中西部に位置する"市街レミスタ"は治安が悪い事で有名だ。
栄えてはいるものの、この街に足を運ぶ人は年々減っている。
立ち入れば銃弾が飛び、殺される。わざわざそんな危険な場所へとよそからやってくるのは、物好きの変人だけだろう。
その根源には、レミスタに拠点を構える大きな教会、"イデアル聖堂"があった。
表向きには奉仕活動をしたりと慈善的に振る舞っているが、そこには裏があった。
メンバーの中には宗教などと謳って祭服に身を包んでいる者もいるが、実態はただの犯罪組織集団--マフィア紛いである。
"クロード・ヴァクトマイステル"
イデアル教の構成員の一人だ。教祖セザールの息子として"扱われている"。
いわゆる若頭だ。
任される仕事は様々。
その中でも、彼の得意の専門分野は
"殺人"だった。
横暴で人柄が悪く利己的、そのくせ表向きは愛想が良い。決して善い人間性ではない。
しかし、銃を扱うその腕前には誰もが認める。
激しい銃弾戦の中で狙った心臓を、スコープ越しに撃ち抜いた脳天を、
彼は、決して外す事はない。
「も〜。喚くな喚くな、人が寄ってきちゃうでしょう?」
僕の人生、殺す。殺し続ける。殺人。それとセックス!
それだけがすべて。
殺人は、一日のルーティンに欠かせないもの。
自分のためだし、世界のためでもある。救うんだ。救済に過ぎないんだ!
救うための行為なんだ。だから、
やってもいい。
いや、むしろ僕は世界に貢献しているはずだ。醜い人間どもの人口を減らしてやっている。
"叔父さん"が言うんだから、神様とやらがそう言うんだから間違ってない。
今日のターゲットは小柄な長髪女だ。
こんな貧相な体でリスみてえな面して、よく堂々と僕の近くを歩けたもんだ。殺してくれって言ってるようなもんだろ。
どうせ罪人。みーんな罪人。
罪人なら僕が好きなように罰してやるから、赦してやるから、喜んで死ね。赦しましょう。
このメスガキをターゲットにした理由、正直これと言って無い。
本当に何となーく、気分で選んだ。
しいていうなら、僕好みの顔だったことか。まあ、タレ目が可愛らしいこと。
今日のコーヒーブレイクは何の豆を淹れようかなと香りや味わいを想像してその場の気分で選り好みをするような、そのくらいの感覚だ。
「さ、大人しくしてれば一瞬で終わるからね〜良い子に出来るかな〜?」
「嫌、嫌!!やめて!!誰か助けて!!?」
うるせえなあ。
「喚くなっつってんだろうが。ブッ殺すぞ」
愛嬌のある声とは打って変わったドスの効いた声に、思わず自分でくすりと笑ってしまった。人格が分裂でもしてんのか?
ああ。煩い。煩いなあ。うるせえ。
たまには気分転換でもしようかな。
うーん。
じゃ、今日はナイフでいってみよう!
手始めに、小鳥みてえにピーピー喚いてる耳障りな声帯に刃を突き刺す。狙いを定めるのは得意なもんで、動脈は避けられた。
これで世界に邪魔なものを一つ殺した!次はどうしようか?
あ、
ーーブロンド色の髪が綺麗だ。
よく見るとこの女、超絶好みだ。下半身が膨張し始める。
無理やり押さえつけて、女の腕を無数に切りつける。他傷版・リストカット。
リスカ跡がある女って興奮するよね。だからつけた。
ある程度切りつけて満足したので、そのままノコギリの如く腕を切断しようと思っていたのだが、さすがに小刀1つで骨まで切るには時間がかかりそうだ。
面倒になったから、素手でバキっとへし折ってやろうと思い切り殴ってやる。
骨を折り曲げてやる。
ミシミシと音が鳴るのを耳で手で感じる。
バキバキと音が鳴る。
腕から血を啜る。
興奮、する。
この腕、家宝にしたい。うちの教会の祭壇に捧げよう。叔父さんもきっと喜ぶ。
みんな幸せになれる、天国に行こう。
リスカ跡があるようなこういう女は好きだ。ちょっと頭がおかしい女は大好きだ。だって、僕みたいだし。僕が好きな人とはかけ離れているし。
僕の理想の女性は、ああ。
セックスしよう!
「あれ、喋んなくなっちゃったな」
気絶してるのか死んでるのかわからないけど、中々締まりが良くて気持ちが良かった。
まあ、僕は別に"マグロ"も嫌いじゃないからな。
「セザールさん、この女しばらく部屋に置いとくね」
「またかい。君の部屋はいつも死臭がする」
僕はいつも、自室に女性を飼っている。
寂しさを、埋めるため?
何のために?
なんでもいい。僕が気持ちいいんだから、何だっていいんだ。
「嫌いな匂いじゃないんだろ」
「そうだけどね。メイドの彼女が、君のせいで仕事が増えるとよく嘆いているよ」
んなの知ったこっちゃない。
こんなゴロツキの集まり、清潔だとかどうとか誰も気にしないんだから、家政婦なんか雇わず別のところに金回せばいいのに。
それに、ここはあの女がいるべきような場所じゃない気はする。
取り繕って見た目だけ綺麗にしてたって、全然綺麗じゃないんだ。
僕の部屋は絶対に入るなと言っているのに、あの女はいつも勝手な事しやがる。教会の人間じゃなかったら首を絞めてた。
掃除が嫌いな僕には助かってる部分も、あるけど。
「ま、何だかんだ言う前に僕のこと認めてくださいよ。ちゃんと今日も人1人殺してきましたよ。」
「だけれど、それは別として異臭は困るな。言いつけを守っているのは偉いけどね」
「はあ。あんた、いつもこう言ってるだろ」
"死は
「ああ。私たちにもその時が来るまで、血の洗礼を受け続けるんだよ」
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