第11話 廃屋
懐中電灯に照らしだされた玄関は、ホコリと土と落葉が積もっていた。古い革靴がカビている。下駄箱の上に型の古い電話。カベと天井にはクモの巣がはっている。
「やっぱり気味悪いなあ」
タケムラが呟いた。
「そうか? そんなでもないと思うけど。ただ古い家ってだけで」
ちょっと怖い廃墟があると聞いて肝試しとシャレこんだ物の、正直期待はずれといった感じだった。幽霊が出るという噂らしいが、病院や学校と違ってどこにでもあるような民家だからか、特に怖いという感じはしなかった。
俺は特に豪傑というわけではないし、小学校のときは子供会の肝試しで大泣きした物だけど。
「すげえな。怖くねえのかよ」
「別に……」
俺は、ずかずかと中に入り込み、フスマを開けた。
そこは居間のようだった。
白っちゃけたカーペットに、色のあせたクッション。低いテーブルには、新聞やチラシがホコリと一緒に載っていた。空気は妙に生ぬるかった。
「おい、ナオユキどこだ!」
後でタケムラが呼んでいる。何やっているんだろう。いくら懐中電灯の明かりしかなくても、こっちの姿が見えない距離ではないはずなのに。
「ここだよ」
返事をしたとき、視界の隅で何かが動く。
(幽霊?!)
慌てて懐中電灯をむける。
オレンジ色の輪の中、クッションの上で、女性が座っていた。
「あら、お帰りなさいヒデちゃん。お庭をお散歩してきたの? 道路には出なかったでしょうね?」
遠くからタケムラが呼んでいる。
「おい、ナオユキふざけてるのか?」
そうだ。俺の名前はナオユキだ。ヒデではない。
でも、本当にそうなのだろうか?
『あなたは記憶を失っていたのよ。自分の名前も忘れていたの』
昔、孤児院の先生はそう言っていた。
『もっとも、あなたが孤児院の門の前に座って泣いていたのは小さい時だったから、記憶があっても上手にお話できなかったでしょうけど』
『じゃあ、僕の名前は先生がつけたの?』
『そうよ』
「おい、ナオユキ、どこにいるんだよ、出てこい」
かすかに、タケムラの言葉が聞こえた気がした。
「ヒデちゃん、おやつまでもう少し待っててね」
お母さんが立ち上がって台所へむかった。
窓から差し込む光が、ぽかぽかと部屋の中を照らしだしている。古いけれどきれいなジュウタンの上に、お父さんが寝転んでひなたぼっこをしている。
お父さんは笑いながら立ち上がった。
「じゃあ、お父さんとかくれんぼするか!」
ボクはうれしくなって駆け出した。どこに隠れよう、どこに隠れよう。そうだ、押し入れがいい!
ボクは押し入れの中に入り込み、フスマを閉める。ピシャ!
ナオユキの死体はなぜか押し入れの中で見つかった。もちろん一緒にいたタケムラが疑われたが、外傷も毒物反応もなく、死因は心臓麻痺ということになった。
それから詳しい調べで分かったことだが、その廃屋には両親と子供の三人が住んでいたらしい。主は、金がらみの逆恨みで妻ともども殺されてしまったそうだ。まだ幼い子供だけは今も行方不明。
ひょっとしたら、二人も殺した殺人鬼でも、幼い子供を殺すのは忍びなくて逃がしたのかも知れない。
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