M氏の告解

糸島誠

第1話 人魚と河童

 汽水、海水と淡水が混ざる河口で人魚と河童は出逢った。

 人魚は岩場に座り町を眺めていた。その美しい姿を見た河童は一目惚れした。


 人魚は海中の生活に飽き、陸上のきらびやかな生活に憧れていた。

「もう、海の中は嫌っ!」涙を一粒零した。それは真珠になった。

 河童は真珠を町の宝石店に持って行った。

 真珠はとても色や質がよく高値で売れた。


 人魚と河童は陸の上で暮らし始めた。

「私は海水がないと死んでしまうの」

「素敵な家じゃなきゃ嫌っ!」泣くたびに真珠が一粒。大きく立派な水槽と、素敵な家を買った。


 TVやネットを見て「私もモデルみたいにお洒落がしたい〜」泣くと真珠が一粒。特製のドレスを誂えヘアメイクをしネイルもした。

「わぁ〜綺麗!」人魚はご満悦だ。


 河童が人魚の動画をネット上げると、美しい人魚は忽ち人気者になった。

 たくさんのコラボ製品も作られた。人魚海水パック、人魚のブラ、人魚スイミングダイエット…

 動画の広告収入やロイヤリティ収入は莫大な額となり、人魚はセレブの仲間入りをした。


 人魚の身の回りの世話は河童がしていた。

「もう、なに?この田舎臭い食事は!」

「水槽の海水が濁ってるわよ!気が効かないわね!」

 辛く当たられても感謝されなくても、河童は人魚のそばに居て喜ぶ顔を見ているのが幸せだった。


「アフリカの砂漠に行きたい」人魚が言い出した。

 プライベートジェット機をチャーターして循環型海水濾過システムを持ち込めば何とかなる。河童は万全の準備をして人魚の願いを叶えた。


「すごい〜!見渡す限り砂ばかりね〜」人魚はプライベートジェット機の窓からご機嫌で砂漠を眺めている。

 突如、エンジンの音がおかしくなり墜落した。


 砂漠の上に人魚と河童は放り出された。奇跡的に人魚に怪我はなかったが、河童は片足の骨が折れていた。


 まず河童は水槽を探した。少し先に壊れた水槽を見つけた。まだ海水が残っている。

 しかし、足のない人魚は歩けないし、片足が折れている河童は人魚を運ぶことができない。

 河童は炎天下、痛い足を引きずりながら少しづつ海水を運び人魚を湿らす。しかし、すぐさま乾いてしまう。


 河童は折れた足で、何度も何度も壊れた水槽と人魚の間を往復した。

「なんなの!生ぬるい海水は気持ち悪いのよ!」人魚は河童に文句を言った。

「救助が来るまで我慢してね」

「 もう、なんてことなの。あなたのせいだからね!この役立たず!」


 水槽の海水が底をついた。

 河童は自分の頭の皿用のペットボトルの水をそっと人魚に掛けた。最後の水だった。

「なに、これ!真水じゃないの!」

「ごめんね、これしかないんだよ。ごめんね」そう河童は答えると同時にその場に倒れ息絶えた。


 驚いた人魚が河童を抱き寄せた。見ると河童の頭の皿は干上がってひび割れていた。

 やっと人魚は気付いた。

 人魚は久し振りに泣いた。零れた涙は一粒の真珠に変わり、河童のひび割れた皿に落ちた。乾いた音がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る