来客

あの激しい腕の痛みから数分、ようやく体を動かしコンビニに行く途中でふと、昨日のテレビでやっていたニュースのことを思い出した。


   「そうだ、凛が言ってたクレーターのある公園てもう少しであるよな」


俺は、あまりそういうのを信じないが、凛が、珍しくニュースに食いついていたので、こっちとしても興味が少しだけあった。


   「まっ、何かのはったりだと思うが、この目で確認するまでは、断定できないな」


コンビニから少しだけ離れた場所にその公園はある。家から近いということもあり、昔はよくここで凛達と遊んでいたっけな。この公園には、特に何もないが、申し訳程度のベンチとブランコだけがあり、なんとか公園としての造形を保っているだろう。



暫く歩いたら、例の公園が見えてきたので、覗くような形で、その公園の辺りを見回した。


   「どれどれ........まじか....」


すると、そこには、直径2メートル以上の不自然なクレーターがあるではないか。


   「CGじゃなかったのか...」


半信半疑いや、ほぼ嘘だろうと子供がいたずらしたものだろうと思い行ったので、そのクオリティに度肝を抜かれた。


   「でも、一体誰が何のためにこんな物作ったんだろうな」


広さはあまりないとはいえ、深さが均等になっていて、子供が作るにしてはだいぶ無理がある。


   「物好きな人がいるもんだな」


どっかの職人が、来た人をびっくりさせて作ったのだろうか。その真相は分からない。


   「ふぅ、ちょっと疲れてきたな」


少ししか歩いていないとはいえ、さっきあんなことがあったのだ、肉体的な疲れはそんなにないものの、精神的な疲れが今になって襲ってきた。

公園のベンチに座り、さっきの出来事について振り返る。


   「でも、急になんであんな.....」


自分でもわかるわけがない。通り過ぎただけであの腕の痛み、偶然で起こったのか、それとも必然に起こりえたものなのか。そんなの誰にだって分かりやしない。


   「今日は朝からというもの、この腕の痛みに左右されているな」


しかし、今となっては、その痛みも綺麗さっぱり消えている。でも心配だから、問診ぐらいはしないとまたあの痛みがいつ発症してもおかしくないんだから。


暫くベンチに座っていると、どこか見慣れた影が見えてきた。


   「おや、これは珍しい奴がいるじゃないか」


現れたのは明だった。多分大会が近いから朝練に行くところなのだろう。本当にご苦労様だ。

  

   「ちょっと、買い物のついでにな」


   「でも、お前何も買ってなさそうに見えるけど?」


   「今から行くところだ」


   「ふーん」


   「なんだよ、興味なさげな返事して」


   「別に、ただ昨日に引き続いて朝から元気ないなって」


   「あぁ、今日は確かに元気ないかもしれないな」


   「何かあったのか?」

  

   「あぁ、少し腕の痛みでな」


   「今は大丈夫なのか?見たところあまり痛そうにはしてないからさ」


   「あぁ、今はもう大丈夫だ、通りすがりの人達が直してくれた」


   「その痛みってあの火傷のだろ、そんな簡単に治るものなのか?」


明は俺の火傷の事情を知ってるが故に、そんないきなり現れた人達が治してくれるなんて、信じれてはいなかった。


   「そう思うだろ、俺も最初はさ、何が起こったのか全然分からなかった。でも女の人が俺の腕に手をかざした瞬間、痛みがなくなったんだ」


簡潔にさっき起こったことを明に話した。


   「信じられないと思うが、これが数十分前に俺に起こった出来事だ」


   「へぇーそれ凄いな、もう魔法とかそのレベルじゃん」


意外にも明は信じてくれた


   「信じてくれるのか」


   「痛かったらお前、今頃こんな所にはいないだろ、それにお前嘘とかつけないタイプだしな」


   「まっ、確かにそれもそうだな」


こんな話、明以外に言っても誰も信じてくれないだろう。だから、こういう時コイツが俺の友達で良かったと思える。


   「でもなんか、その人達神様みたいだよな」


   「急にどうした?」


明が当然変なことを言い出すので、思わず突っ込んでしまった。

 

   「だってさ、今までなかったものをまるで、最初から無かったことにするんだろ、そんな芸風神様以外出来ないって」


   「確かに、そうかもな」


   「でも、痛かった時の事までは、無かったことには出来ないんだろ?」


   「あぁ、今もあの時の痛みは記憶の中に残ってる」


あの痛みは、俺がこれまで経験してきた中で2番目に痛かった痛みだ。あんな痛み、もう二度とごめんだ。


   「なら、少しはさ息抜きしたほうがいいんじゃないか、お前先週からずっと元気なさそうだし、あんまり根詰めんなよ。体は回復したかもしれないけど、精神は回復してないんだからさ」


明にしては珍しく、まともな答えだった。


   「いや、別に無理はしてないけど....」


   「そういう所だぞ」

 

   「どういう所だ?」


   「自分では、気づけていない所が、自分では大丈夫だと思っても、体は悲鳴を上げてるもんだぞ」


   「お前意外にそういうのに詳しいんだな」


   「陸上始めてからこういうの何回も経験してるし、まっ精神のことまでは分からないけどな、ていうかお前が水泳やってた時にはこういう経験したことないの?」


   「残念ながら一度も、自分のリズムは崩さなかったからな。お前の方こそ休んだほうがいいんじゃないか?」


   「確かに」


こういう所も実に明らしい。


   「まぁ、とにかくまずは休め、家でゴロゴロするのもよし、気分転換に何処かに行くのもよし。とりあえず嫌なことは忘れて、体も心もリフレッシュしてこい」


   「はいはい、分かったよ」


明が熱く語ってきたので、押され気味になってしまった。


   「じゃ、俺朝練あるから」


と言いながら、ベンチから立ち、自転車の方へと向かっている。


   「あんまり無理すんなよ」


   「お前のほうこそな」



明との会話を終わらせ、明は朝練、俺は買い物とそれぞれの目的のため足を動かそうとしていた。


   「あいつ、たまにはいいこというじゃん」


そう心の中で呟いて、ベンチから立ち上がり、目的の物のために足を動かした。


その後は、無事に目的のマヨネーズも買えたのだが....


   「せっかくここまできたし、明もリフレッシュしろとか言ってたからなんか気分転換にどこか行こうかな」


明から言われたことを思い出し、何か良い所はないかと考える。


   「うーん いざ考えてみると案外出てこないもんだな」


普段からは、あそこに行ってみたい、ここに行ってみたいと思いつくのだが、こういった時に程行きたい場所は特にない。


   「そういえば....」


そういいながら、財布の中身を見る。


   「あった」


見つけたのは、この前要らなと凛から、渡された駅前にオープン仕立てのカフェだった。


   「別に行きたいと所ないし、気分転換には最適の場所だろう」


と、思い家に帰る方向の逆を行き、駅前のカフェに向かったのであった。

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