第7話 アリシア視点:そして職務は始まった。
私の初めての主人、坊ちゃまと会ったのは、6歳になってすぐの事だった。
いつものように
「君がアリシア、ちゃんかな?」
「はい、アリシアは私です。私の様な者に一体、何の御用でしょうか?」
見た目からして貴族。
好々爺の下で教わった洞察力と前世の知識が、今目の前にいる男性が貴族なのだろうと、認識した。
綺麗な服、整った顔つき、何より、林の奥から見える紋章を付けた馬車。
それら全てが、ルートン・ブラッドフォードだと認識させる。
「君の師匠から話は聞いているか?」
「くそ、いえ、爺様からは何も」
「………」
何一つ偽りのない言葉。
私がそう漏らすと、ルートンは何処か頭を抱える様な様子を見せる。
もしかして、クソじじいから何か話を聞いているのだろうか。
「そうか」
「……爺様から何か聞いているのでしょうか?」
私自身、あの好々爺の行き先の一つだって知りたかった。
私が6歳になったというのに、あの好々爺は「あめでとう」の言葉一つなく、何日も私の前にその姿を現していない。
「えぇ、貴女の師匠から君を雇うように言われている」
「雇う?」
「あぁ、君を私の家の使用人として……大丈夫だろうか?」
「………」
あのクソ、今度会った時はぶっ飛ばす。
私に何も相談せずに、勝手に人を使用人として働かせようとするなんて、クソじじいめ、個人情報の貴重性を知らないのか?
その為にも、
主に居場所。
「大丈夫ですけど、二点ほどよろしいでしょうか?」
「む、なにか?」
「あのくそ、クソじじいは一体、どこにいるんでしょうか?」
(言い換えなかったな、この子)
私は今、途轍もない怒りを見せている。
あの個人情報漏洩野郎、見つけ次第、前世の軍人時代仕込みの説教(物理)で絞める。
「むぅ、すまない。それは我らも知らない」
「………はぁ」
という事は逃げられたことは間違いないな。
あのクソじじいめ。こう言う事が起きると分かって私に何も言わず出て行ったのか。
それに私がこう考えることも理解して情報を、相手にらせていないと見た。
こう言う時だけ用意周到な爺め、罰のランクが上がったな。
「ではもう一点、契約内容の説明をお願いいたします」
「え?」
私はあのクソじじいの情報を引き出せないと判断すると、すぐに話題の変更をする。
だがルートン・ブラッドフォードは鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべる。
「どうかしましたか?」
「いや、小さな子にしてはきちんとしているなと」
「人は見た目で判断するのは貴族として、品が無いように見えますが?」
「ぬ、うん。そうだな」
(六歳になったばかりにしては、きちんとしすぎているな。全く、あ奴め。とんでもないものを残しおって)
私自身、何も間違った質問はしていない。
これは当たり前のことだ。
ましてや契約相手はあのクソじじい。余計なことを付け加えているに決まっている。
「で、契約内容だが……」
「契約内容の説明の際はできる限り、くそ、爺様が提案してきた内容を出来る限り詳細に御願い致します」
(次は言い換えたな。にしても警戒心が高い……まるで、ヤマネコだ)
私は契約内容を聞いて内心、驚いていた。
ルートン・ブラッドフォードから聞かされた契約内容は、あの糞爺が考えるには比較的真面なものだった。
まず、ルートン・ブラッドフォードが提示してきた契約とは、専属使用人についてだった。その契約内容は、大まかには住み込みでのメイド業、主人である息子のサポートと教育と言う物であり、あの糞爺が組んだ契約にしては真面な内容だった。
「で、ここから私から頼んだ依頼なのだが………」
すると、ルートン・ブラッドフォードの歯切れが悪くなる。
もしかして………。
「……爺様が契約した内容だと?」
「………そうだ」
「そうですか、御聞かせください」
「……あぁ、では言うぞ?」
「はい」
ルートン・ブラッドフォードは糞爺と契約した内容を口にする
彼の口から漏れた契約内容に、私はわずかに眉をひそめる。
その内容は、次期当主である息子の護衛だった。
今までは教育や身の回りの世話だったのに、護衛という言葉が入るだけで数段、難易度が変化する。
「これを爺様は飲んだのですか?」
「あぁ」
「………」
本当に碌な事をしない、あのクソじじい。
護衛という事はSPの真似事をしなければいけないという事。
私自身、そのような行為が苦手という事を知っていたはずなのに、あえて悪い条件の下で案件を取ってきやがった。
これには頭を抱えるしかない。
確かに人を殺すことは慣れているけど、SPの真似事と言うのは……。
「無理かな?」
「……はぁ、やります」
心配そうに見つめてくるルートン・ブラッドフォードに私は渋々、返答をする。
それに既に契約を結んでいるというのなら、引くに引けない。
これでもプロ、達成しなければ経歴に傷がつく。
とはいえ、いつでも降りることはできる。無理だと判断すれば、退職すればいいか。
「分かったこれで契約は官僚という事で良いかな?」
「はい、大丈夫です。では、いつ出立でしょうか?」
「今だ」
「……分かりました」
溜息を吐く暇なんて私にはくれないようだ。
今すぐ準備、と言われるが、今の時間は休憩時間。
「荷物などは」
「後日、纏めて私の屋敷に送ろう。今は君の体だけで十分だ」
「……分かりました」
ルートン・ブラッドフォードに言われた通り、彼に案内されるまま林の向こうにある馬車に乗り込む。
すると、馬車は何も言わずに走り出す。
「ここから長くなるが、大丈夫か?」
「大丈夫です」
「そうか」
(この子、本当に6歳なんて思えないな)
馬車に乗り込むとルートン・ブラッドフォードはそんな事を言うけれど、私にとってはどうでもよい事。
ただ静かに馬車に揺られるだけ。
馬車に揺られ、窓辺には次々と風景が変わっていく。
その変わりようは、前世の頃にいやと見た現代車両と同じ速度。
馬車にしては異常と言えるその速度に、私は何も違和感を抱かない。
生まれてこの方六年も経つ、その間には前世と違いを嫌という程、理解する。
「にしても、乙女ゲームの世界だとは」
「うん? どうかしたか?」
「いえ、独り言でございます」
「そうか」
私はこの世界を知っている。
知っているうえで、この世界でどう動くかは私の勝手。
モブとして生まれたのなら、そう生きるのが当たり前………だなんて言えない。
誰かに決められる人生なんて私は知らない。
私は今、決めてこの場にいるのだから。
そんな事を考えていながらも、揺れる馬車から外の風景を眺め続ける。
もう少しで舞台に着くと思いながら、舞台の長と共に馬車の中で揺られ続ける。
外の景色は、舞台に近づくほど生い茂る木々の数とそれに相対する整えられた道。
遠くの景色からは、大きな屋敷と庭園が目に入り、そこが目的の場所だと認識する。
にしても、本当に舞台の周りは何でこうも何時でも人に狙われるような場所にあるのだろう。
あぁ、またアンブッシュエリアだ。後で確認してみよう。
「着いたぞ」
「分かりました」
ルートン・ブラッドフォード《旦那様となる男》に言われ、馬車を降りる。
すると、目の前には一つの大きな屋敷が広がっていた。
まぁ、ここが乙女ゲームの中でどういう世界だとかも知っているから。
この家が後に滅ぶことも、知っている。
「リヴァ、今日から君の専属使用人となる。アリシアだ」
だったらやることは一つ、
「アリシアです。これからよろしくお願いいたします。坊ちゃま」
まずはこの人を矯正しないといけませんね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます