第8話 悪役令嬢は、飽きている
俺の逃亡事件から既に何日か経ち、俺はとある人に会っていた。
「……シェフィールド姉さん」
目の前に広がる屋敷の庭園。
その中心にある白いテーブルセットでは、薄い金の髪に柔くも白い肌、そして、此方側の真意を問い質しそうな凛とした緑色の瞳を持つ女性。
シェフィールド・ブラッドフォード、がそこにはいた。
凛とした佇まいは、同じブラッドフォード家の人間として、また一人の人として、別の存在なのでは無いかと錯覚させる。
「珍しいわね、時間通り」
「……えぇ、少し良い使用人と出会いましてね」
「あら、そう」
やはり、何度も言葉を交わしているけどシェフィールド姉さんの気持ちが読み取れない。
まるで、人形のように綺麗に象られているように見える。
淡々と言葉を語り、一つ一つの所作さえも人と見ていいのか疑問に思う程の、美しい姿だった。
「リヴァ、貴方、最近の所はどうなのかしら?」
「……まぁ、良い変化はありましたとも」
「もしかして、そこの使用人かしら?」
「……えぇ」
今まで宮殿で王妃教育をしてきたシェフィールド姉さんは一体、どこからそのような情報を仕入れるのだろうか?
やはり、宮殿生活だと様々な噂が飛び交うのだろうか?
「そう」
「姉さんはどう?」
「いつも通り、宮殿でつまらない王妃教育よ。もうそろそろ十三歳になるもの……」
「ふぅん」
十三歳、そうか、シェフィールド姉さんはもうそのぐらいになるのか。
宮殿での王子の婚約者として、俺が生まれてすぐから宮殿での王妃教育を受けている。今の俺の歳が十歳だから……何と言うべきか、時間と言うものはあっという間に過ぎ去ってしまう感じがする。
「もう、お父様にも言いましたけど、私、来年からは【学園】に通う事になったの」
「学園……というと、聖ウェルシュ学園ですか?」
「えぇ、先日、宮殿の方から私宛に入学紹介状が来たの」
まるで、来るのが当たり前かの様に語るシェフィールド姉さん。
【聖ウェルシュ学園】
王都にある貴族御用達の学園で、貴族の子供たちが十三歳になると入学が許可される。
そこに入学したら、貴族としての人脈の形成や在り方などを学ぶ学校としての一面と、大人たちの陰謀絡まるビックリ箱。
国家を代表とする貴族学校でもある為、入学者も多くそこに入るだけでもその人や家にプラチナ価格を与えるとも言われている学校。
そんな、学校から紹介状を貰うとは、学校の方から譲歩してきたように聞こえる。
いや、そうなのだろう。
「すごい、ですね」
「どこが? 当たり前のことよ。この国の後の王妃になる者たちであるのならば、学校の方から譲歩するのは当たり前」
「………」
何と言うべきか、人のことも言えないけど、本当にろ十三歳の子供か?
冷静に物事の把握する力や物静かな振る舞い。
大人顔負けの立派な淑女になっているシェフィールド姉さんに、同じ家の人間として休めているのかが心配になる。
「なんていうか……おめでとう」
「ありがとう、けど、次は貴方の番よ?」
「え?」
「次期当主であるのなら、入学は絶対。確実に合格を勝ち取りなさい」
「……う、うん」
シェフィールド姉さんの言葉に俺自身の気が引き締まる。
そうだ、シェフィールド姉さんは招待状飽きたけど、俺の場合はそうなるとは限らない。
本来、聖ウェルシュ学園とは貴族であろうとも入学試験と言うものがあり、それを越えなければ入学できない。
故に貴族たちからの絶対に入るべきと言う期待感、そして、影響力を持っている。
それは俺にも当てはまり、次期王妃と次期公爵家の長、どちらに紹介状を渡すかなんて決まっている。
「貴女も、ブラッドフォード家の次期家長として、励みなさい」
「………うん」
変わらない。
初めて会った時から、シェフィールド姉さんは俺に対して何一つ変わらない。
これは、ブラッドフォード家として言葉だろうか?
それとも、一人の姉としての言葉だろうか?
ただ人形のように、紅茶を口にする姉さんに対して俺はそんな事を思ってしまった。
「それで……」
それからシェフィールド姉さんは何かを話していたけど、俺は聞いていなかった。
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