第3話 生意気小僧の一目惚れ~メイドの華麗な対処法を添えて~

 最初はしょうもない悪戯からだった。


 仕事をする彼女の足を蹴ったり、バケツに入った水をわざと溢したりなどをする。


 けど、悪戯をする度に彼女は口にする。


『邪魔です』


 いつもの使用人達は、苦笑いをしながら、俺のことを諫めてくるけど、この女は違った。


 俺の悪戯なんて、子供の遊びだと認識するかのように、彼女は言ってくる。


「邪魔です」

「邪魔です」

「邪魔です」


 そう言われる度に俺は、何とも言いようがない屈辱感を抱いた。


 今までの優越感が一瞬の言葉で消え去り、俺の目の前から何かが崩れ落ちていく。


 徐々に過激になっていく悪戯も、平然とした顔で躱され、邪魔ですと一蹴される。


 崩れていく何か。


 優越感も何もかも、目の前の女が壊していく。


 俺から、全て奪うように。


「っ!」


 何もかも奪われる。


 だけど、俺には最後の手札がある。


「おい、お前」


「……何でしょうか?」


 俺はそう決めると、すぐに行動を始め、廊下を歩くあの女アリシアを呼び止める。


 いつもと同じようににやにや、と顔をしながら、彼女に話しかける、


 だが、女の顔はいつもと同じ無関心な瞳を見せる。


 その表情に、僅かに戸惑ってしまう。


 だが、ここまで来たのだ、俺は最終手段の技を使う。


「お前、スカート捲ってパンツを見せろ」


「……命令ですか?」


「あぁ、聞けないのか?」


「……そのような業務は、今後に役に立つのでしょうか?」


「あぁ」


「………はぁ、というか品が無いです。女性を口説くなら」


 すると、突如、彼女は説教を始める。


 淡々と気にしない姿勢を見せる女に、俺はひしひしと怒りが込み上げてくる。


「お前がそんなこと言うのなら、親父に言って」


「……確かにそれは困りましたね」


「そうだろう?」


 俺はそう言いながら、指先から得意な水魔術で彼女の体を濡らす。


 すると、頭の上から浴びた水魔法が見事に彼女の体を濡らし、着ている衣服は透け、ぴったりと張った服の下からは死人のような白い肌と白い下着を見せる。


「ほら、脱げよ」


 けらけらとした笑みを浮かべ、俺は逆らえない状況を作る。


 借り物の権力を使い、権力に無い者に対して容赦なく酷い現実を突きつける。


 さぁ、その顔を恥辱で汚せ。


 俺に涙を見せろ! 怒りを見せろ!


 人の汚い一面を見せろ!


 俺に無様に本性を見せろそうしたら、俺の勝ちだ


「はぁ、うざいです」


 ………は?


 だがアリシアは怒らない。涙を見せない。恥じらいを見せない。


 何もかも踏みにじろうと、嘲笑って見せるけど、目の前の女性はそのような様子を見せない。


「これだから子供は……」


「それは、俺とあんまり大差ないだろ!」


「確かに、そう言われるとそうですね。さすが、です」


「っ~~~!」


 なんだこの女は!


 俺の事を馬鹿にしているのか。


 侮蔑をしているのは、俺の方のはずなのに、この女の前だと、何もかも見透かされているような感じが……。


「だったら、今この場で決闘しろ!」


 俺は叫んだ。


 目の前の女に対して叫んだ。


 我慢できなくなった。


「そこの使用人!」


「ひっ!」


「お前が証人だ! 俺とこの女の決闘を見届けろ!」


「は、はいっ!」


 廊下の角に隠れている使用人に、俺は大きな声を上げ、命令する。


 すると、怯えながら現れた使用人メイドをこの決闘の証人とし、この決闘自体が認められた。


 相手の承認なんて知らない。


 ここでは俺が上なのだから。


「………坊ちゃま? 男は口先だけですと信用されませんよ?」


「うるさいっ! お前はさっさと決闘の準備をしろ!」


「はぁ……」


 溜息を吐く女。


 だがそんな溜息を吐けるのも今だけだ。


 俺の水魔術で、その息の根を止めて、気絶………、




 そう考えた瞬間、俺の視界は反転した。




 何が起こった? と脳が考える以前に、僕の体はふわっとした浮遊感が体を包み、ゆっくりと動く視界が思考さえも停滞させる。


 ドンッ、と自身の臀部に強い衝撃が走る。


 視界は僅かに白く染まり、色を取り戻した時には、俺の額に黒いを突き付けられていた。


「これでお遊びは終わりです」


「………」


「ひえぇ……」


 終わりを宣言するアリシア


 この状況、俺自身、何が起こったのか分からない。


 だけど、今の尻餅を付けて、彼女に黒いものを突き付けられている以上、俺の敗北は決定事項となった。


 僅かに残っている、まだ戦えるという意思は、彼女の手にある黒いものの威圧感に押しつぶされる。


 どれほど早く動いても、今からどのような策を行使しても、行動に移した瞬間、


 そのような物を感じさせる。


「アリシア………」


 圧倒的な威圧、そして、目にも止まらぬ行動力。


 今までの上辺だけじゃない存在に、俺は………、

 

 彼女に惚れてしまった。


 誰よりも輝く女性アリシアに、強い女性異性に、目を奪われ、心も奪われた。


 尻餅を付けながら、アリシアを見つめる視線には怒りと言ったものは無く、只の羨望、いや『こい』してしまった。


 とても無様だと思っている。

 頭から自分のあり得る限りの魔力で作った水を浴びて、尻餅をついた男の姿は滑稽なのではないかと、けどそれ以上に、俺は強く輝く彼女アリシアに惚れた事が、羞恥よりも強く脳裏に、心に刻み込んだ。


 ちなみに、この後、専属使用人からやめさせた使用人たちに謝った。(一応、やめさせたとはいえ、職を失わない様に使用人のままだけど)


____________________________


俺氏    「ごめんなさい」(びしょ濡れ)

モブメイド 「!!?」(ガタガタ)

アリシア  「よくできました」(無表情)


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