第19話 自由フランスの事情

 前回オランへの攻撃には大和の整備の為に出撃を拒否していたが、今回は事態の悪化を受けて参加せざるをえなかった。

 しかも、作戦前に一悶着があった。

 先日までの味方を攻撃することなど出来ないと宇垣司令官が拒否した。

 宇垣の心情、かつての味方を攻撃するなど、誇り高い日本海軍将兵にとって同意だっただだろう。

 だが外交上の必要から井上長官が命じようとしたが陸に上がった軟弱者の話しなど聞かないと言い出して口論になってしまう。

 援英艦隊の司令長官は井上だが、イギリス側との交渉の為に陸上に司令部を設置していた。

 これは後々連合艦隊司令部が陸上に置かれたことを考えれば、正しい判断であり時代を先取りしていた。

 だが当時は日本海海戦の伝統、指揮官先頭、艦隊司令部は艦の上にあるべしという声が大きい。

 後に大将となる豊田など、海軍の伝統を蔑ろにする愚かな行為だと声高に非難した。

 両者の溝は埋まらず、破綻しかけたが、日本にいる山本が電報を使い二人の間を諫めた。

 何とか、出港したが、更に一悶着が起きた。

 ドゴールが自由フランス軍を率いてダカールに向かうといったのだ。

 イギリスへ脱出した元フランス軍将兵からなる自由フランス。

 だが、ヴィシー政権がある今、彼等は、脱走者、国家への反逆者として扱われていた。

 また、軍隊を整える、兵員を養い装備を集め、武器弾薬食糧を常に供給するには相応の経済基盤必要だった。

 イギリスの援助もあったが、イギリスも戦争中であり、回される物資は少ない。

 また、戦争に勝てたとしても、イギリスから援助を受けた事実を元にイギリスがフランスに不当な要求を、最悪、フランスはイギリスに従属する事になって仕舞う。

 以上の理由から自由フランスは根拠地を強く熱望した。

 そこで考えたのが今回の作戦でダカールへ行き現地の植民地総督を説得し、自由フランスの付かせる。

 そして、ダカールを根拠地としようというのだ。

 しかし、上手く行くとは松田には思えない。

 これまで自由フランス側に付こうとしない植民地を日英の艦艇をバックに軍門に降らせようという他力本願な考えだ。

 ドイツ占領下か傀儡政権であるヴィシーフランスの立場を悪くするだけであり、自由フランスに来るとは考えられない。

 それ以上にドゴールが説得できるとは思えない。

 作戦開始前に顔合わせを行ったが、頭脳明晰で、公明正大だが、自分が正しいという思い込みが激しく自分に従うように相手に迫ってくる。

 国家元首ならともかく、一将軍であの態度は、周囲の心証を悪くする。

 現に、ドゴールは大和を訪れた時、自由フランス軍の作戦だからといって宇垣に指揮下に入るように言ってきた。

 しかも通信装備に優れた艦を旗艦にしたいと大和を旗艦として使用したいと要請してきた。

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