第17話 フランス海軍の脅威

 当時のフランスは一九世紀の植民地獲得競争に参戦し世界中に植民地を持っていた。

 フランス海軍は植民地獲得の為、また歴史的なライバルであるイギリスやイタリアに対する備えとして、整備された。

 以上の経緯からフランス海軍はかつてのライバルイギリスに次ぐ規模で、欧州でも有力な兵力を持っていた。

 フランス軍の大半はヴィシー政権に従い海軍も大半が服従した。

 だがフランス軍の一将軍ドゴールがイギリスに脱出し自由フランスを立ち上げ、フランス将兵に参加を呼びかけた。

 一部は自由フランスに加わったが、ドイツとの休戦条約の履行を考えたフランス海軍の大半は、参加しなかった。

 しかしドイツの接収を恐れフランスの海軍基地、ドイツの手が届かないフランスの海外植民地へ脱出していた。

 もっともヒトラーはレーダーを初めとするドイツ海軍の要請、フランス軍艦の接収を認めず、従うならそれで余地と現状維持を選択した。

 しかし、イギリスは安堵できなかった。

 もし、フランス海軍がドイツ海軍に協力したら、イギリスの海軍の優位は崩れてしまう。

 協力はなくてもヒトラーの気が変わりドイツ軍がフランス海軍の艦艇を接収したら、ドイツ海軍の能力が上がってしまう。

 かつては世界最強の海軍国だったが先の大戦で力を使いすぎたイギリスにかつてのような強大な海軍はない。

 少ない予算で作られた艦艇で通商路の確保と独伊枢軸海軍の封鎖で手一杯だった。

 ここにフランスが加わったら、劣勢とは行かなくとも、英国が保っている優位は失われ、厳しい状況になる。

 先にも述べたとおり、ヒトラーがフランス海軍がイギリス側へ行かないだけで良しとして接収の意思はなかった。

 だが、海洋国家イギリスは海軍の恐ろしさを知るだけに、艦艇が、イギリスへの対抗手段が存在するだけで恐怖だった。

 中立の艦艇でも、何時敵に回るか分からない。

 アメリカ独立戦争の時、欧州ほぼ全ての国が武装中立同盟を結成しイギリス近海に艦隊を派遣して脅かされた。

 その恐怖からナポレオン戦争の時フランス側に回る事を恐れた当時中立だったデンマーク海軍を二回も攻撃し接収した。

 百年以上経ってもその考えも恐怖も拭えない、そして正しい認識の元、イギリスはフランス海軍艦艇がドイツ海軍に渡らないよう手を打つ事にした。

 イギリスの軍港にいたフランス艦艇はすべて英国海軍によって接収され自由フランス側へ引き渡された。

 そして、ヴィシーフランス所属の艦艇には以下のような選択肢を突きつけた。


(1) 再び連合国陣営に加わり枢軸陣営と戦う。

(2) 艦艇をイギリスの港に回航する。

 乗員はできるだけ早く送還し、艦艇が被害を負った場合は補償する。

(3) 西インド諸島、又はアメリカの港に向かう。

 ドイツの配下になることに抵抗があるなら西インド諸島へ向かい、非武装化できるならアメリカへ向かう。

(4) 自沈する。

 もし、公式な申し出を拒否すれば6時間以内に自沈を行うよう要求する。

(5) 戦闘を交える。

 イギリス国王陛下の政府からの要請に基き、どんな手を使ってでもドイツの手に渡ることを防がねばならない。


 イギリスの要求は当然だったが、勿論、フランス海軍が承諾できるような内容ではない。

 当然拒否し、接収若しくは撃沈しようとするイギリスはフランス海軍接収撃滅作戦、カタパルト作戦を実行しそれまで味方だった英仏の間で衝突が起きる。




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