第2話 第二次ロンドン海軍軍縮条約
先の大戦――第一次世界大戦の傷跡は酷く、特に主戦場になったあヨーロッパは酷い被害を受け、国力が衰退していた。
人々は平和を求めていた。
しかし、この戦争で利益を得たアメリカと日本は利益を元に海軍の拡張を始めた。
かつての海の覇者、大英帝国はこの建艦競争に参加する余裕はなかった。
そこでワシントン海軍軍縮条約を締結し軍備の制限を狙った。
日米も無謀とも言える拡張計画と完成後の予想される莫大な維持費に頭を悩ませており、英国の提案は渡りに船だった。
新造艦を手に入れられないが無限とも思える国力を持つアメリカを条約で軍備を制限した方がマシだったからだ。
かくしてワシントン海軍軍縮条約により戦艦の保有数が制限された。
しかし補助艦への規定がなかったため、各国は条約外の巡洋艦以下の軍艦の整備に入ったため、新たにロンドン海軍軍縮条約を締結し、拡張を抑えた。
そのロンドン条約を延長するために第二次ロンドン海軍軍縮条約が34年より予備交渉が進められた。
しかし、各国の主張がバラバラだった。
軍備平等を求める日本に対し、英米が兵力比の現状維持を求めたからだ。
日本の主張する戦艦の全廃も視野に入れるとう条項がアメリカや英国にも反発されていた。
そのため要求が受け入れられない日本は、会議からの脱退も視野に入れていた。
日本が脱退を宣言する前日、英国は日本と秘密交渉を行い新条約案と代替条件を提示した。
戦艦
主砲一二インチ以下、基準排水量五万トン以下とする
既存艦の一二インチ砲への換装
保有トン数は現状比を維持
代艦の即時建造を認める
空母
現状維持
補助艦艇
重巡洋艦 現状の兵力比を維持
軽巡以下 合計英米五〇万トン、日本三五万トン以内とし、各艦種内で一五万トン以内とし詳細は各国の裁量に委ねる。
エスカレーター条項
違反、脱退国、一二インチを超える主砲搭載艦が出現した場合、一六インチまでの換装を許可
条約期限
1942年末まで
かなり、歪ともいえる条約案だった。
特に排水量五万トンで一二インチの主砲を持つ戦艦など防御過多、攻撃力僅少で、バランスの悪い艦になる。
しかし、ビックセブンの一角とはいえ八八艦隊のプロトタイプであった長門や陸奥には性能面で不満があり、金剛の代艦を必要としていた日本は条約を飲み込んだ。
更に英国が日本政府に破棄された第二次日英同盟の再締結、満州国承認、連盟への復帰助力、ポンド圏との貿易許可を交換条件として提言された。
世界恐慌で不況に喘いでいる日本にはこの提案、特に英国圏への市場開放は渡りに船であり世界連盟への復帰も喜ばしい事だった。
ただ満州国へ英国も進出させなければならない、イギリスポンドに日本が組み込まれるという反発は日露戦争で戦い、満州を日本の生命線と喧伝する陸軍で反発が大きかった。
海軍内でも軍備制限の不満が溜まっていた艦隊派で不満は大きかった。
統帥権干犯問題の影響も残っており、特に過激な一派が首相暗殺などのテロ行為や、2.26の反乱騒ぎさえ行ったのはある意味当然だった。
しかし、不況から離脱するため日本は英国の条件をのむしかなく、天皇の断固とした決意もあり、政府は第二次ロンドン海軍軍縮条約に調印。
後日、英国は約束を守り第二次日英同盟が締結された。
異常ともいえる英国の外交的大盤振る舞いだが、世界恐慌で国力が弱っていた英国はなんとしても海軍の軍縮、そして世界の平和を維持し、あの地獄のような世界大戦の再来をを防がなければならない、という英国の意思の表れだった。
ドイツの暴虐、ラインラント進駐、オーストリア併合、ズデーデン地方およびチェコ併合を認めたのも、次の大戦を防ぐ為だった。
勿論万が一の戦時も考えており、戦争になった時、起きそうな時、主砲を換装するだけでよい、と英国は思っていた。
他国は換装するにも時間が掛かる上に戦艦の隻数が少なく、開戦前に換装を始めれば格好の口実になる。
改装中に武力制裁、海上封鎖を既存艦で十分に行える。
万が一、攻撃されても防御力に優れるため、沈まない。
そうして時間を稼いだ間に、攻撃力に優れる主砲へ換装、新たな戦艦を投入して撃破しようというのが英国の目論見だった。
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