風味
中樫恵太
第1話 端書き
私が彼について覚えていることはごく少数であります。というのも、ほとんど記憶がないのです。彼、ここではXとしておきましょう
Xがどのような人間かと問われれば、昔の私でしたら、すらすらと彼について思うところの内を諳んじることが出来ましたが、今となっては、彼の声すら思い出せません。
何とか記憶の片隅に残っているものといえば顔であったり、好みの服装であったりと役に立つものはありません。私は絵画が不得意でありますので、似顔絵も見れたものではありません。
私は、ここで唸っていてもこれ以上意味が無いと思い、持っていた羽根ペンを置きました。そのまま外套を羽織り、睦月の寒い外へ出かけました。
Xについて、思い出すためです。
冬の寒さに身を震わせながら、私は彼に思いを馳せました。家の周りの団地を抜け、人通りが少しばかりある大通りの方へ足を向けました。
幾分か歩くと、Xの事を思い出すのです。私はまた忘れぬように持っていた手帳に書き留めておくことにします。
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