最悪の最期
オレは車を運転しながら、堂本という『弥生の月』の秘書について、
「
「もし、
名塚燿の里親である、名塚氏と連絡が取れた。
里親は、共に健在である。引き取って数年後に、「弥生の月の施設で預かるから」と、大金を渡されたそうだ。
受け取ったお金を、彼らは一銭も使っていなかった。
「あの子が生きているなら、全額お渡しして欲しい」とのこと。
「どうも。情報提供に感謝いたします」
緋奈子は、スマホを切った。
同時に、オレの胸ポケットが振動する。
「福本からだな。運転変わってくれ」
コンビニで車を止めて、緋奈子に運転を任せた。オレは、福本からの連絡を聞く。
「堂本について、調べてくれたか?」
『はい。えー、名前は
父が
「自衛隊ねぇ。つまり」
『弥生の月とのパイプは、ありました。工作員の一人だったそうです』
母は、さっきも出てきたヒカリで間違いなかった。
『関係者の話によると、チャン・シドンと堂本晴夫はスポーツジムが同じでした。何度か家族とも会っているようです』
「ヒカリとチャン・シドンは、不倫していたのか?」
『みたいっすね』
どうも、単なるタレントとファンという関係ではない。夫が、友人であるシドンと妻を引き合わせてしまったのだろう。
それで、ヒカリは燿を妊娠したと。ずっとレスだったのに妊娠したので、夫は怪しんだ。
『で、妊娠を機に別居し、千晴は父親が引き取っています。ですが、父親はチャン・シドンの兵役訓練中に殉職していますね』
「堂本の父親は、死んだってのか?」
『はい。自衛隊の演習中に。それも、韓国軍との合同訓練中のことでした』
スナイプ用の高台が根本で爆発を起こし、晴夫は二〇m先に転落したという。首の骨が折れて、即死だったそうだ。
「まさか、殺し合った?」
『うええ。それは世知辛いっすねぇ。死んでも死にきれませんよ』
「堂本千晴は、どうなったんだ?」
『弥生の月運営の、施設へ入りました。ソレ以降は、現状のとおりです』
「燿は、いなかったんだな」
『はい。ちなみに燿は、生きていたら当時二歳ですね』
なんか、ひっかかるんだよなぁ。
「たしか救急隊は、燿を見つけられなかったんだよな?」
『ですね。むしろ、子どもの存在自体を怪しんでいるようでした』
燿が、生き残ったと仮定する。堂本が燿だけを助け出し、施設に置き去りにしたのかも。
その後、燿は名塚家に、と?
『いいセン行ってるんじゃないっすか?
「黙ってろ。じゃあ切るぞ」
オレは、スマホを切る。
「ってことは、堂本は母親の無理心中を知っていたことになるよな?」
「偶然だったのかもしれません。彼はまだ幼かった。母親に会いに行っていても、おかしくありません」
報道があった直後に、堂本ヒカリは亡くなった。
「そこへ、心中の現場に遭遇してしまった、か? できすぎだが、ありえるな……」
当時まだ幼かった堂本にとって、複雑な心境だったに違いない。
「育てるにしても、幼い堂本ではどうしようもなかったでしょう」
彼は後に弥生の月へ引き取られたが、その場合、弟も一緒に暮らさなければならない。
母親が死んだ原因を、燿は作った。
かといって、母親にとって燿は忘れ形見だ。
殺せなかったとなると。
「施設に置くしか、なかったんだな」
とはいえ彼は、弥生の月を恨む動機はある。
たった一人の弟を、魔王と融合させられた。
燿は、家族を破滅に追い込んだ人間の血を引いている。
堂本にとって、燿は疫病神だ。
しかし、唯一の肉親に変わりはない。
そんな弟を、弥生の月は生物兵器に変えた。
「……カオル、あなたは堂本が、全て仕組んだとお考えで?」
「仮説だっての。あくまでも」
先入観だけで、堂本を犯人と断定はできない。
条件が揃いすぎているとはいえ、裏付けが必要だ。
工場の前に近づくと、爆発音が起きた。
「ななな、なんだ!?」
オレは身をかがめる。
「爆発ですね。車が炎上しています!」
「あそこに、
車を降り、オレは急いで消防と救急を手配した。
~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~
銃で武装した黒服共が、あおばを取り囲む。
「やっちまいな!」
モーニングスターを振り回し、あおばは銃弾を弾き飛ばす。同時に、黒服たちの頭を吹き飛ばした。
黒服が鎖をかいくぐり、徒手空拳でかかってくる。
相手のハイキックを、あおばは鎖で巻く。骨をへし折りつつ、転倒させた。仰向けになった黒服のアゴを、踏み砕く。
遠くに、スナイパーの影があった。ライフルの銃弾を、鉄球で弾き返す。
打ち返された弾で、スナイパーの眉間に穴が開く。
残った三人の黒服が、武器を白鞘の刀へ切り替えた。
あおばがモーニングスターで、死体から銃を弾き飛ばす。
黒服は、拳銃を両断した。
鋼鉄をも切り裂く特殊素材のようだ。
あおばは、モーニングスターを加速させる。黒服の頭部めがけ、直線に飛ばす。
勝機と見たのか、黒服は真一文字切りの姿勢になった。
ピンと張った鎖に、あおばは体当たりする。
武器の軌道が変わり、背部にいる黒服のこめかみに鉄球がクリーンヒットした。
さらにあおばは鎖を上へ蹴った。また鎖がピンと張る。
浮かんだ鉄球を、あおばは蹴り上げた。
剣で防ごうとした黒服のヒザに、鉄球をぶつける。
相手がひるんだところで、あおばは鎖を引く。
鉄球の重みを利用して、ヒザを壊された黒服に急接近、ノドにケリを入れた。
最後の一人には、ボーリングの要領で鉄球を投げつける。
敵はガードした。
しかし、あおばは鉄球の背面をキックする。
蹴りによってさらに加速した鉄球が、黒服の刀ごと顔面を砕いた。
あとは聖奈だけ――。
しかし、聖奈はあおばの腹部を、刀で刺し貫いていた。
さっきまでの三人はブラフだったのだと、あおばはようやく気づく。
黒服との戦いに気を取られているスキに、懐へ飛び込まれたのだ。
蹴り飛ばして、勢いがつきすぎたのだろう。
鉄球は、鎖とともに天井の梁にぶら下がってしまった。
頭部に鉄球をぶつけたくても、術で身体が動かない。
「よくできました。でも、もう少しがんばりましょうかね?」
あおばは、口から血混じりの泡を吹き出す。
水色の着物に、あおばの血がかかった。
「やだぁ。この着物高かったのよ? JKではとても払えないくらいの金額なのに。この代償は、あなたの命でいただくわね?」
聖奈が、あおばの腹から刀を抜く。次の狙いは、心臓か。
「死――」
刀がこちらを向いた、そのときである。
聖奈の脳天に、鉄球が落ちてきた。聖奈の首が、砕ける音がする。
壊れた人形のように、聖奈は足元から崩れ落ちた。
あおばは鉄球を蹴り上げた際、鎖を天井へ引っ掛けておいたのだ。
あらかじめ、鎖にも手を放しておいて。
ベストタイミングで、聖奈に落下するように。
それは、聖奈があおばの動きを止めて、攻撃してきたときである。
同時に二つ以上の物質を止められないのは、想定済みだった。
さっき血を吐いたとき、確信する。
SEINAを、仕留めた。
自分の人生の師であるキリちゃすを貶めた、クズのような人間を。
師匠、あなたの仇は取りました。
もう、思い残すことはない。
意識を失う前にあおばが見た光景は、数名の警官と、救急車のストレッチャーに乗せられている自分だった。
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