16.蝉時雨
エルが持ってきた軽食をテーブルに置くと、その後ろに黒髪の男女が続いてきた。
「どうしたの?その格好」
赤眼の男を見やるとシルファが訊ねる。
「ちょいと警備員を撒くのにね」
「そういえばいつものスーツ姿に戻ってるわねぇ。そっちの方を見慣れ過ぎてて気付かなかったわぁ」
「それでどうやって撒いたんだ?」
早速たこ焼きを頬張るエルが質問をした。
「頭も目も隠した上にあんだけ目立つ服着てたんだ。この服装になったらもう分からねぇだろ?」
「俺はそっちの方が分かりやすいけどな」
ターピンに手を伸ばしたエルがそう言う。
「そりゃお前が俺のことを知ってるからだろ。あの変な格好を最初に覚え込ませておいたらよ、そう疑われねぇんだ」
「お前のように誰にも悟られず着替えが出来ることが前提だがな」
「俺は脱ぐのも脱がすのも速ぇンだよ」
青い眼の男の言葉にそう答えたツェンが瞬時に衣装を元の民族的な衣服へと変えた。
「変って認識はあったのねぇ」
アイスコーヒーを手にしたリネアが赤眼の男を見ながら告げる。
「俺様の美しい髪や顔を隠すようなアクセサリーなんざ、端から警戒でもしてなきゃわざわざつけやしねぇよ」
「頭の話よぉ」
リネアの返事に張り付いたような笑顔をしたツェンが彼女の肩に腕を回して言った。
「冷たくないかしらぁ?」
「その腹立たしい口調止めてもらえない?いちいち肩を抱こうとするのも不愉快」
険悪な表情で腕を振り払いながら告げるリネアにツェンが答える。
「悲しいねぇ」
「そんな子供みたいな口真似したらリネアさんだって腹立たしく思いますよ?」
肩を落とすサングラスの男に栗色の髪の少女が告げた。
「俺への挑発はスルーかよぉ」
「それは本当の話ですから」
珍しく拗ねた顔をしたターバン風の男がバーズの肩を抱いて言う。
「昔みたいに二人仲良くやろうぜ」
「それはできない相談だ」
そう言いながら青眼の男に睨みつけられたツェンが答えた。
「へぇへぇ、そのへんは自粛致しますがねェ。俺だってなぁ」
リネアの顔を一瞥するとツェンが言う。
「ちょいと調査がてらフラついてくるぜ」
「俺の肩から手を放してから言え」
青い眼の男が肩に回された腕を振り払いながら告げた。
「そうかいそうかい、だったら一人で行きますよ。バーーーカ!!」
ツェンの態度に戸惑ったシルファがバーズに問う。
「どうしたの、あの人。珍しく子供みたいに」
「長く生きている以上、あいつには失うものが多い。生存している中で最も長い付き合いなのが俺なんだ」
その答えに目線を落とす少女を他所に長い黒髪の女が言った。
「だったら一緒に行ってあげたらぁ?」
「それこそできない相談だな。誰が君等を守るんだ?」
「別に守っていただく必要はないわよぉ?」
怒気を含んだ声でそう告げるリネアにバーズが答える。
「言い方を変えよう。誰が子供達を守るんだ?」
「私一人じゃ不安ってことぉ?ツェンのことは心配じゃないとでも?」
バーズが低い声で淡々と答えた。
「以前にも言ったがヤツのことなど心配していない」
「薄情者!」
黒眼の女がそう言い捨てるとツェンの後を追う。
「少し冷たくない?確かに心配はしなくて良さそうな人だけど、寂しい時もあるんじゃ・・・」
「あいつのことはよく知っている。だからリネアに行ってもらった」
筋骨隆々の男と自身の胸を交互に見たシルファが納得しつつも拗ねた表情をする横で、エルが軽食を食べ続けていた。
「結局こうなる訳だ」
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