君とGプラを組みたい
重量はともかく、かさばって仕方がないため購入した商品の大半は宅配サービスに託し……。
ダイバーシティ内のオシャレなお店は――高いため、自販機のジュースを購入してフードコートでしばし休憩する。
その後は、二人で道中スルーしたお店を冷やかしたり、ゲームセンターで遊んだりしていると、あっという間に17時を迎えた。
ダイバーシティにおいては、11時から二時間おきにある特別なイベントが行われている。
すぐさま帰らず、あえて時間をつぶすようなことをしたのは、単純に彼女と遊びたかったからでもあるし、何よりそのイベントを二人で見るためでもあった。
「毎日何回もやってるイベントだっていうのに、結構人がいるもんだなー」
「まあ、何しろダイバーシティに来たならこれ! っていうイベントですから!
今は春休み中でもありますしね」
両手に買い物袋を提げた二人で、その場所――等身大立像の所にやって来る。
おそらく、目的は同じなのだろう……。
像の前には、自分たちと同じような観光客や買い物客たちが集まり、スマホで記念撮影などを行っていた。
四月を迎えたばかりの本日であるが、まだまだ日が落ちるのは早く、夕陽に照らされた等身大像の姿も先とちがった味わいを感じる。
「こう、でっかいのが夕陽に照らされている姿もカッコイイもんだな」
「原作シリーズにおいては、なかなか見られないシチュエーションでもありますしねえ」
ガノお気に入りの角度……等身大像を斜め後ろから見上げる位置で、そんなことを語り合っていたが……。
「――と、どうやら時間のようだな」
「ですね! さすがにこれは正面から見ましょう!」
タイマーを入れておいたスマホの振動にうながされ、二人で正面の方に移動する。
そこには、やはり同じ目的の人々が集っており……。
ついにそれが、開始された。
――ヴン!
――ヴイイイイイイイイイイン!
という音と共に、等身大像の各部が発光し……。
『――いきます!』
決然とした少年の声が、広場に響き渡る。
同時に流れるのは、これから起こることへの期待感を否が応でも高める荘厳なBGM……。
――アーアーアーアアアアアー!
いよいよ曲がが最高潮に達した時、それは起こった。
これを言葉で表すならば、変形……。
いや、変身という二文字こそふさわしいだろうか……。
機体各部の装甲が、なめらかに展開すると共に、露わとなったフレームが赤く発光する。
最後に、人間でいう顔に当たる部分が収納され入れ替わり、象徴的な一本角が開き鎧武者の兜飾りがごとき様相を呈することで、変身は完了した。
――おおー。
その声を漏らしたのは、自分か、はたまたガノか……。
あるいは、この場に集ったギャラリー全員であるかもしれない。
変身を完了した等身大像は、十数秒ほどその雄姿を見せつけた後、また元の姿へと戻っていく……。
イベントの開始から終了までを計測すれば、おそらくは一分少々に過ぎないだろう。
しかし、これほどの巨大建造物が、テレビアニメさながらのスムーズな変身機構を披露してみせる……。
その圧倒的な存在感と迫力を見ると、このためだけにお台場を訪れる価値もあると思えた。
「いや、実際にこれを見るのは初めてだけど、結構スルッと変身完了しちゃうものなんだな……」
興奮冷めやらぬ様子のギャラリーに混じりながらそうつぶやくと、ガノがしたり顔でうなずいてみせる。
「ふっふっふ……!
まあ、実戦でモタモタしてたらNTをDする前に自分がDされちゃいますから!
そして、実はこれ完全再現されてるわけじゃないんです」
「そうなのか?」
「はい! そもそも原作だと、各部がスライドすることにより全長にも変化が起きるのですが、現実でそれを再現すると建築法に引っかかっちゃいますので!」
「なるほど、確かに危なくて仕方な――」
「――そうなんです!
各地へ建設されている等身大像の建設は、安全性との戦いでもあると言えるでしょう!
そもそも、福岡に建造されている93ffのファンネルがあのような形状に変更されたのも、元のように羽状では危険極まりないからですので!
しかし、その発想転換がロングレンジタイプという、元とはまた異なるロマンを持った武装を生み出しているわけですので、まさに必要は発明の母と申しますか!」
「現実に再現しようとすると、どうしても無理のある箇所が出――」
「――現実に無理のある箇所といえば、目の前に立つRX-0のフェイスチェンジを置いて他にないでしょう!
そもそもが小説媒体の主役機ということもあり、デザイナーが絶対に再現できない機構を目指した結果、マスクの厚みがゼロでなければ再現不可能というウソの塊みたいな設定になってますから!
ですが、この等身大像やPGで見られる頭部にマスクしか入ってない構造も、マシンならではのリアリティを逆に感じられてキタコは好きなんです!
頭部が飾りとは言いませんが、別にメインコンピュータを始めとする重要機器が頭部に集約されている必要もどこにもありませんからね!
そもそも、みんな大好きなZだってメインジェネレーターが存在するのは胴体じゃなく両脚ですし!」
モギの
それは、当然ながら周囲のギャラリーたちにも聞かれており……。
皆が皆、ポカンとした顔で彼女のことを見やっていた。
「――はっ!?」
ひとしきり語りたいことを語って、ようやくそのことへ気づいたのだろう……。
ガノが周囲を見回しながら、恥ずかしそうに身を縮こまらせた。
「え、ええとその……。
すいません、キタコ興奮しちゃって……。
認めたくない、若さゆえの過ちと言いますか……」
くすりという笑い声が漏れたりする中……。
視線に耐えかねている彼女の肩へ、ぽんと手を置く。
「あっはっは!
まあ、確かに興奮し過ぎちゃったところはあるかもな!」
「ううう……」
ますます身を縮こまらせる彼女に向けて、可能な限り口角を上げてみせた。
「でも、さっきの話は結構楽しかったぜ!
確かに、ガノが言ってた通りあのやり方で顔を変えてると、頭の中にマスクパーツしか存在しないもんなあ!」
そう言ってみせると、これだけ人が多い中で迷子の子犬みたいな表情をしていた彼女の顔が、先の変身した等身大像もかくやという輝きをみせる。
「そういうところに着目できるのも、原作とGプラが大好きだからだろう?
ここには好きを楽しみにきたんだから、あまり恥ずかしがるのも損だぜ?」
そこまで言い切ると……。
「――はい!」
彼女は、照れ臭さを残しつつも笑顔を浮かべてくれたのであった。
周囲の人々も、くすくすとした笑いは消そうとしなかったが……。
それはどこか、暖かみを宿したものであったと思う。
--
「はあ……さっきはすみません。
キタコ、興奮し過ぎちゃいました」
帰り道の、ウエストパークブリッジ……。
夕陽に照らされたガノが、ふと振り返ってぺこりと頭を下げた。
「何を言ってるんだ。
さっきも言ったけど、好きなものを見て興奮するなんて当たり前のことだろう?
俺の姉さんなんか、ジャニーズのコンサート行った時はすごかったぞ。
こう、自作したうちわ持って喉が枯れるまで叫んで……。
チケット余ったからって連れてかれたけど、あれは実の弟でも少し引く姿だったな……」
「ああ、お姉さん限界系の方なんですね?」
「でも、すごく楽しそうだった」
当時の姉を思い出しながら、ガノに笑いかける。
「周囲に迷惑かけたっていうなら問題だけど、あのくらいならかわいいもんだろう。
あそこにいたのは、大なり小なり興味を持っているか、根っからのGオタクなんだろうしさ。
言ってみれば、ライブ会場みたいなもんだ」
「あっはは……。
まあ、これからは少し周りを見るようにします」
ぽりぽりと頬をかいてみせるガノだが、これからという言葉には少し思うところがあった。
「これから、か……。
まずは、今日買った旧キットを組み立てる――前に、RGをデカールで飾ってやらないとな。
今日見た、Gベースで展示されてたプラモみたくはいかないだろうけど、俺も自分にできる限りで格好良くしてやらなきゃあ」
「そうですね! キタコ! お手伝いします!」
「ありがたい! あれだけ細かいのがいっぱいだと、説明書通りに貼りつけるだけでもひと苦労だろうからな。
……でもな」
そこでまっすぐ彼女の瞳を見つめ、ついに……伝えようと思っていた言葉を口にする。
「俺が君と一緒にGプラを作るのは、何もテクニックが足りないからだけじゃないんだ」
「え……?」
こちらの意図を察したのだろう……。
彼女の頬が、少しだけ赤みを帯びた。
いや、それはおそらく自分も同じか……。
「君と一緒にGプラを作るのは、とても楽しかった。
最初のEGはともかくさ。
RGは本当に細かい作業が多くて、自分一人だと腕のケガとか関係なしに投げ出しちゃってたんじゃないかと思う。
でも、君と話しながら、手を借りながら作業してると、地道で地味なそれが不思議と苦にならなかったんだ」
「えっと、それって……」
もじもじとしながら、彼女が姿勢を正す。
お互い、Gベースの買い物袋を提げた状態といういまいち絵にならない姿であるが……。
いや、これこそが
「改めて、言わせてくれ。
ガノ、俺は……。
――君とGプラを組みたい」
そう言って、しばらく見つめていると……。
ガノが髪をもてあそびながら、ふと視線を外す。
「あっはは……。
モギ君、駄目ですよ。女の子にそういう言い方したら……。
だって、それじゃあまるで――告白みたいじゃないですか?」
「おいおい、告白以外の何に聞こえたんだ?」
「――え?」
そう言う彼女に、肩をすくめながら笑いかける。
「どうかな? 今の文句。
Gプラを組み立てるよりは、自信があったんだけど」
「えっと……その……」
買い物袋を両手に提げたまま、もじもじとした動きを止めないガノであったが……。
しばらくそうした後、ようやく口を開いてくれた。
彼女の返事は――。
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