マキオン

 ガノがPS4を起動しゲーム画面を呼び出すと、何やらどこかで見た覚えのあるタイトル画面が表示された。


「お、これってもしかして、ゲーセンでよく見かけるアレか?」


「フッフッフ……。

 そう、ゲーセンでよく見かけるアレの家庭用移植版! 通称マキオンです!

 このシリーズは息が長いですよ。

 始祖である連ジが稼働したのは、キタコたちが生まれる前ですからね。

 パパから聞いた話によると、当時苦境にあえいでいたゲームセンターを救うほどのヒットになったとか!

 それで今も、ゲームセンターの定番タイトルとして君臨しているのです!」


「あー、確かに。

 今じゃ家でネット対戦もできるし、その方が金もかからないだろうに、いっつも誰かしらが遊んでるもんな。

 そんな長寿ヒットシリーズだったのか」


「まあ、初代は自陣営の機体しか選べなかったりと、お世辞にもバランスはよくなかったらしいですけどね。

 でもでも、キタコ的には大河原節がよく再現された連ジとエウティタは大好きです!」


 そんなことを言いながら、ガノがコントローラを操作していく。


「総帥、今日もご機嫌うるわしゅうございます!」


 これは、ナビゲーターキャラなのだろうか?

 画面に映った黒い詰襟軍服のおじさんに、ガノがなぜか敬礼を送った。

 しかし、彼女がコントローラーを操作すると、たちまち彼は画面から消え去り……。


「えっと、フリーバトルにして、タイマーと戦力ゲージは無限。

 CPUのレベルはSTOPと……」


 代わって、何やらゲームモードを設定する画面が表示される。


「最後に機体を設定して……まあ、切られ役はX2でいいでしょう」


 最後に、自機と敵機が選択され、ゲームが開始された。


「さあ、ガノ君! 動かしてみてください!」


「お、おう」


 言いながらコントローラーを手渡され、画面を注視する。

 ステージは、どこか山の斜面沿いに建設された軍事基地だろうか……?

 いかにも見通しが良い大地の上へ、こちらに背を向ける形で立ったのは、たった今製作中の機体であった。


「おお、こうやって見ると、ロボットがマント羽織るのって無茶苦茶にカッコイイな!

 本来、服なんか必要ない存在があえてそれを着る意外性というか」


「ふっふ……。

 ちなみにこのマント、ビームを何発か防ぐことのできる優れものだったりします!

 ただ、着ると当然ながら背部のバーニアが干渉してしまうので、背中からスラスターを突き出させた本機のみが、その真価を発揮できるわけですね」


「おー、なるほど。

 確かに、こないだのEGに着せたら、飛ぶとマント燃えちゃうもんな」


 そんなことを言いながら、コントローラーを操作する。

 余暇の多くを柔道と勉強に当てているモギであるが、だからといって、ゲームのたぐいを全く遊ばないわけではない。

 そこは、年頃の男子高校生であり、時には部活仲間とゲームセンターへ寄り道するようなこともあった。

 その経験から判断すれば、今、やるべきことはただ一つ!


「うーん……」


 モギがそれを試すと、画面内の自機がグニグニと奇妙な挙動で歩き回り、その果てにビーム銃を撃ったり、ビーム剣を振ったりする。

 だが、これはどうも、考えていたのとはちがう動きだ。


「あれ、こいつにはないのかな?」


「……モギ君。

 まさかとは思いますが、波〇拳や昇〇拳を出そうとしてませんか?」


「ああ、竜巻旋〇脚も試しているんだが、どうもこいつには対応する技がないようだな」


「……そのコマンド法則が当てはまるのは、基本的に2Dタイプの格闘ゲームだけですね。

 これは3D視点のバトルアクションなので、移動キーとボタンの組み合わせだけで全てのアクションが使用可能です」


「なに、そうなのか?」


 そう言われて、色々と試してみる。

 すると、画面内の自機はビーム銃を撃ったり、飛ぶ斬撃のようなものを放ったり、果ては斧みたいな形状の僚機を召喚し、それを振り回したりした。


「へえー、色んな武器を持ってるんだな」


「核弾頭からトビアックスまで、原作の印象的な武器や戦法のことごとくを再現してくれるのは、スタッフの愛を感じますねえ。

 一つ付け加えると、厳密に言えばこちらは装備を変更したタイプなので、今作ってるのとはちがいムチとか使えます」


 ひとしきり挙動を確かめ、画面の奥に存在する敵機を見やる。

 たしか、ガノはX2と言っていたか……。

 だとすると、自機とは兄弟機の関係であると推察でき、事実、機体のシルエットや羽織っているマントが共通していた。


「試しにちょっと、殴ってみるか」


 モギの意思に答え、自機が雄々しく動き出す。

 ……具体的には、地面の上をドタドタと走り回った。


「……ドタ走りするクロボンというのも、なかなかにシュールな光景ですね。

 素早く移動キーを二回動かすと、ブーストダッシュができますよ。

 あと、ジャンプボタンで空を飛べます。

 どちらも、ブーストゲージを消費しますが」


「どれどれ」


 言われるままに操作すると、先ほどまでのバタバタした動きが嘘のように素早い動きで自機が飛び回る。


「おお! ちゃんとさっき作った戦闘機のバーニアが動いてる!

 なるほどなー! こうやって機体を飛ばすんだ!」


「自分で作ったプラモとの共通点を見い出すと、何やらすごく嬉しくなりますよね!

 それを味わえてもらっただけでも、嬉しいです!」


「で、こうやって近づいてと……」


 哀れにも棒立ちの敵機へ、自慢のX型バーニアを吹かせた自機が詰め寄った。


「おー! 簡単な操作でガシガシとコンボが決まるな!」


 そこから見せたのは、華麗な連撃の数々……。

 おそらく、突き詰めればもっと効率的で効果的なコンボもあるのだろうが……。

 ビーム剣での斬撃が素早く取り出したムチでの攻撃などが、次々と敵機に命中していくのだ。

 その様は、ただただカッコイイと言う他にない。


「いいぞ……! いい……!」


「そのセリフ、今切られてる方に乗ってる人が言ってたんですけどね」


 ガノに見守られながら、心ゆくまで各動作を堪能する。

 そうしていると、彼女がテレビボードからコントローラーをもう一つ取り出してきた。


「操作も慣れてきたようですし、ここで一つ、二人でCPU相手にフリーバトルをしてみませんか!?

 キタコ! こういう時のために! コントローラーの予備を用意しておいたんです!」


「おお! いいね!」


 そろそろ動かない相手に攻撃するのも飽きてきたところであり、一も二もなくその提案に乗る。

 今まで使っていたコントローラーを譲ると、彼女は鮮やかな手つきで再びゲームモードを設定し始めた。


「対戦相手は両方ともランダムにして……。

 モギ君はそのままX1でいいですよね?

 となると、両2500が分かりやすいだろうから、キタコの機体は愛しのサイコちゃんにして……」


 代わって渡された予備のコントローラーを手に待っていると、あっという間に対戦の準備が整う。


「さあ! 準備はいいですか!?」


「おう! いつでもいいぜ!」


 モギの言葉に応じ、ガノが対戦開始のボタンを押す。

 すると、画面左に現在プラモを制作中の機体と、先日一緒に自撮りしたプラモへ、何やらゴテゴテと追加武装を施したような機体が表示された。


 対する画面右側には、よく知らない機体が二機……。

 だが、二本角のようなアンテナとツインアイを持つことから、いずれかの作品における主人公機であろうと推察できる。


 ステージは奇しくも、先ほどまで練習していたのと同じ軍事基地だ。


「よっしゃ! それじゃあ早速やってみるか!」


 さっき練習したのと同じようにコントローラーを操作し、真正面から敵機へと突っ込む!

 狙うは――接近戦!

 太いビーム剣とかムチとか持ってるし、多分、接近戦に強い機体なのだろうと推察した結果であった。

 が……。


「あれ? あれ? あれ?」


 すると、相手から発射されたビームが三発ほど直撃し、自慢のマントがあっさり消滅し、ダウンさせられる。


「――あれれ?」


 トドメとばかりに、起き上がったところへさっきのよりすごい感じのビームが発射され、またも地を舐めることになった。


「あっはは……。

 今度のCPUはちゃんと動きますし攻撃してきますから、一直線に攻めるだけだと反撃されちゃいますね」


 分割された画面の中……。

 もう一つの敵機と戦いながらも、マシンガンをばら撒いて窮地を救ってくれたガノが、苦笑いしながらそう告げる。


「なるほど、言われてみれば当然のことだな」


 彼女の言葉に納得しつつ、変形し飛び去った敵機にビーム銃を撃ち放つ。

 しかし、これはあっさりと回避されてしまった。


「モギ君! こっちへ来て割り込んでもらえますか!?

 二対一になっていて、サイコちゃんじゃちょっと辛いです!」


「お、おお……」


 言われてみれば、変形し飛び去った機体が向かっているのはガノ機の方であり……。

 彼女は今、元から相手をしていた羽付きの機体とフリーになった可変機からの猛攻を受け、ボッコボコにされてしまっていたのである。


 ――なるほど、これは棒立ちでビーム撃ってる場合ではない!


「ようし! 今行くぞ!」


 マントの剥げた機体を駆り、雄々しく救援に向かう!


「その機体は接近戦に強く設計されています! 恐れず前衛を務めてください!」


「よっしゃあ!」


 どうにか追いついた自機ビーム剣を引き抜き、羽付きの機体へ切りかかった!

 ……が、この斬撃はあっさりと回避され、どころかカウンターで二回切られた挙句、トドメとばかりに蹴りを受けてしまう。


「あ、やられちまった」


 それで自機は爆散し、退場することになった。


「あー! キタコも駄目です!」


 それとほぼ同時に、ガノの操る機体も敵のビームを喰らい爆散してしまう。


「あ、でも復活できるんだ?」


 再び降り立った自機と、やや遅れて復活したガノ機を見ながらそうつぶやく。


「このゲームはコスト制を採用してますから。

 戦力ゲージは六〇〇〇でキタコたちの機体は両方とも二五〇〇コストなので、あと一回だけなら復活できます!

 ……その場合、コストオーバーするので耐久力が減ってしまいますが」


 話している間にも、敵機たちは容赦なくビームや爆発物を撃ち放ってきており……。

 それを横へのブーストでどうにか回避し、なんとなく反撃でビーム銃を撃ちながらうなずく。


「つまり、やられないように気をつければいいんだな?」


「いやでも、モギ君のは格闘機なんであまり離れず、相手に接近してもらった方が」


「あ、そうだった」


 さっきの言葉を思い出すも、もう遅い。

 モギがチキンプレイへ走っている間に、ガノ機は何度となく数的不利へ晒されてしまっており……。


「あー! ごめんなさーい!」


 またも、爆散してしまう結果となった。


「ぐえ!? ぐえ!? ぐえ!?

 なるほど、このゲームは二対一になると無茶苦茶不利なんだな」


 ガノが復活するまでの間、二機からビームを連続して放たれる。

 モギの稚拙な回避は当然ながら間に合わず、またもマントを剥がされダウンしてしまった。


「モギ君! 今、援護します!」


 復活したガノが、マシンガンやバズーカを連射してどうにか割り込もうとしてくれるが……。


「「あーーーーーっ!?」」


 結局、敵機を一度も撃破することはかなわず、最後は羽付きの機体が戦闘機と合体して放った太いビームをモギ機が浴びてしまい、ゲームセットとなったのである。


「ガノ……」


「モギ君……」


 キメポーズをする敵機たちが表示された画面を横目に、互いの顔を見合わす。


「その、もう一回いいかな……?」


「いいですとも!」


 こうして……。

 ゲームの魅力にそれこそガンハマりしたモギは、当初の目的をすっかり忘れてガノと遊び倒してしまったのである。

 もし、工作室で絶賛放置中のプラモが喋れたならば、こう言っていたかもしれない。


 ――なんとぉーっ!?


 ……と。

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