君とGプラを組みたい
英 慈尊
再販の入荷店を叩け!
B社が、Gプラを販売するようになって、すでに四十年が過ぎていた……。
人気ロボットアニメを題材としたこのプラモデルは、同社の大ヒット商品となり、Gオタはこれを購入し、組み立て、そして……ブンドドしていた。
西暦二〇二〇年、過熱するGプラブームに目を付けた者たちが大規模な転売を開始。
店頭在庫の、99パーセントが失われた。
Gオタは、フリマアプリの存在に恐怖した……。
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果たして……これは物を買っている光景と言ってよいのだろうか……。
時は二〇二二年二月一日、午前十時を回ったばかりである。
本日はまごうことなき平日であり、時間帯を踏まえれば、混雑が起こることなどあり得ない。
まして、この売り場は家電量販店にありながら家電を扱っていない――模型コーナーであるのだから。
「我々は、散々待ったのだ!」
「遊びでやってんじゃないんだよぉーっ!」
「グゥレイト! 品数が多いぜ!」
一体、この連中は何をわめき散らしているのか……。
ともかく、妙に作った声を張り上げる男たちの格好は、いずれも地味な、コストパフォーマンスと機能性ばかり追求したものであり……。
それでも身ぎれいならばまだ良いのだが、中には、明らかに入浴も洗濯も怠っているだろう姿で、ぼさぼさの長髪からフケをまき散らしている者さえいた。
まあ、それだけならば珍しいことではない。
ここ秋葉原においては、散見される人種である。
しかし、店内を必死の形相で駆け回ったり、座り込みながら買い物カゴへ商品を押し込もうとしたり、挙句の果てにはバックヤードを覗き込もうとしたり……。
このような光景は、さすがに尋常なものではない。
さながら――動物園。
人でありながら人であることを忘れ、ただ欲望のままに振る舞う情けない奴らの姿がそこにあった。
まだ二十一世紀の前半でありながら世の終わりを感じる光景であり、とりあえず、人類の革新とやらはフィクションの世界にしかなさそうだと確信させられる。
男たちを、そこまで夢中にさせるもの……。
商品棚へぎっしり並べられていたというのに、イナゴが食い荒らすかのように略奪……もとい、購入されていくもの……。
それは――。
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同日、十七時を少し回った時刻……。
嵐が過ぎ去った模型売り場で、一人、立ち尽くす少女の姿があった。
制服姿であることから、下校して間もないことがうかがえる。
肩が荒く上下しているのを見ると、駅からここまで全力疾走してきたようであり、紅潮した頬から、よほどの期待を抱いてこの店を訪れたのだろうと推察できた。
その期待は今、裏切られたようであるが……。
「ない……どこにも……ない……。
今日、入荷したってSNSで見たのに……」
まさか、現実でそんなことをする人間がいるとは……。
がくりと両膝を突いた少女が、うわ言のようにそうつぶやく。
それを見た店員たちが驚かなかったのは、動揺のリアクションを立て続けに眺めてきたからにちがいない。
「申し訳ありません、お客様……。
入荷と同時、飛ぶように売れてしまいまして……」
女性店員の一人がそう声をかけたのは、売り切れをわびるためというより、年頃の女の子がそんな格好してるのをやめさせるためであろう。
「いえ、いいんです……。
すいません……気を使わせてしまって……」
女性店員の心づかいが功を奏し、少女が立ち上がる。
その両目は虚ろであり、総武線が通っている駅付近をあまりうろついてほしくない姿であった。
「売れてますもんね……どこも在庫ないですもんね……。
そりゃ、平日であろうと耳ざとい人たちが押し寄せてきますよね……」
そこまで言うと、少女はスカスカの商品棚を眺める。
午前中まではそこに並んでいた品々の、せめて残り香だけでも嗅ごうとするかのように……。
「本当、なんでここまで品薄なんでしょう。
――Gプラは」
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