第8話 神父
次の日、椅子に腰掛けながらスコップを磨いていると、家の扉を叩く音が聞こえた。
「いまいきます」と、僕は扉向こうの相手に手短に返答し、すぐに家の扉を開ける。そこには兵士の格好をした男が立っていた。
「朝早くに失礼するよ、俺は騎士アズウェル様の使いで来たものだ。……君がスフェン君だね?いきなりで悪いけど一緒に着いてきてくれるかな?」
「わかりました」
僕が頷くのを見ると、騎士様の使いの兵士は笑って「外で待ってるよ」と言い、離れていった。
僕は家の中に戻り、机の上に広げていた仕事道具とスコップを片付けた後、上で寝ているケインに置き手紙を書いてすぐに外に出た。先程の使いの兵士の姿を探すと、彼が木にもたれて立っているのが見えた。僕は側まで近寄り声を掛ける。
「お待たせしました」
「うん、じゃあ行こうか」
彼はそう言うと騎士様のいる元村長宅へと歩いていく、僕はその後をついて行った。
足場の悪い道を歩き、広場を抜けると目的の場所が見えてくる。彼は元村長宅の前までくると、扉を叩き中に声を掛けた。
「墓守のスフェンを連れて参りました」
「よし、入れ」
中から騎士様の声がかかると、彼は扉を開け僕に中に入るよう促す。
「俺はここまでだから。いってらっしゃい」
「ありがとうございました」
ここまで案内してくれた彼に礼を言い、促されるまま家の中に入る。背後で扉が閉められる音を聞きながら、僕は騎士様の姿を探した。
「私はこっちだ、よく来たなスフェン」
僕はその声のする方に歩いていく。すると、家の中でも奥まった部屋に、紅茶を飲みながらこちらを見る騎士様と、その右隣に座る昨日の教会の人の姿が見えた。
彼は何故か、僕の肩あたりを見つめているような気がした。
「こちらこそ、お呼び頂きありがとうございます」
「まぁ、まず座れ、話はそれからだ。紅茶は好きか?」
「はい!有り難く頂きます」
勧められた椅子に座り、目の前に置かれたティーカップを見つめる。ティーカップを置いたのは右隣に座っていた教会の人だった。
意外にも紅茶を淹れたのは彼だったらしく、立ち上がってテキパキと新しい紅茶を淹れる準備を始めた。
「どうぞ、召し上がれ」
「あ、ありがとうございます」
僕のカップに注がれた紅茶は、白い柔らかな湯気を立てていて、こっくりとした澄んだ茶色をしていた。周りにカモミールの良い匂いが広がる。僕はそれを一口飲んでみた。
「美味しい……、こんな美味しい飲み物は初めてです」
苦味がなくスッキリとしていて、口の中に豊かな風味が広がる、すごく美味しい紅茶だった。
「それは良かった。これは私のとっておきの茶葉なんだ」
僕の感想を聞いた彼は、顔を綻ばせながらそう言った。
「では話を進めるぞ。内容は昨日伝えた隣の彼と依頼した埋葬についてだ。覚えているな?」
「はい、覚えています」
彼が椅子に戻ったところで、騎士様は話を始めた。僕は手に持っていたカップを置き、話の内容に集中する。
「最初に隣の彼についてだが、彼はここから離れた町の教会から、第二墓地に遣わされた神父だ。今後、第二墓地にある教会にて祈りを捧げる役割を担ってもらうことになっている」
「クラウディと申します。ご迷惑をおかけしたらすみませんが、同じ死者を弔うものとしてよろしくお願いします」
クラウディ神父は、黒のカソックに燻した銀のような長髪と目をしている男性だった。差し出された手に僕は強く握り返す。
「改めましてスフェンと言います。こちらこそ助かります!よろしくお願いします!」
どの墓地にも、埋葬と墓の管理をする墓守と聖なる結界を張る力を持つ神父が、二人一組で置かれている。
しかし、第二墓地は他の墓地と比べて辺鄙な場所にあったため、前任者が亡くなった後に代わりとなる者がなかなか見つからなかった。
僕が墓地に湧く大量の魔物を退治しているのも、神父が不在のために結界が張られておらず、無限湧き状態だったからだ。
「では、次に依頼していた埋葬についてだ。埋葬してもらいたいのは先日の賊との戦いで戦死した者だ。身寄りのない者であった為、私達だけで見送ることとなった」
僕たちが握手を交わし終えるのを見届けた後、騎士様は話を続けた。
「また、どこかの村が襲われたんですか……」
「ああ、でも心配するな。その時の戦いで賊は壊滅させている。この村の件があったからな、徹底的に潰したさ」
「騎士様、ありがとうございます。村の皆も浮かばれると思います」
「ああ、そうだな」
騎士様の言葉に僕はほっとした。ケインにはもう心配するなと言われていたけど、心の奥では賊に襲われる恐怖をいつも感じていたから。
「それで話は戻るが、その亡骸は損傷が激しかったので予め火葬している。出来ればすぐに埋葬式をしてやりたい。頼めるか?」
騎士様の頼みに僕は頷く。隣に目を向けると、クラウディ神父も同じく頷いているのが見えた。
「かしこまりました。今はクラウディ神父のお力もありますし、今日にでも出来ると思います」
「助かる。私は後から第二墓地に向かう。お前達は先に埋葬式の準備をしていてくれ」
「「かしこまりました」」
その後、僕は騎士様においとまの挨拶を告げるとクラウディ神父を連れて第二墓地へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます