第12話
「勘違いじゃないのか?」
浩志の問いに、せつなは、頭をプルプルと振る。
「……お姉ちゃんが、もうすぐ咲くって言ってたもん」
「もうすぐって言ってもなぁ。もう少し暖かくなってからだろ。どう考えたって」
せつなの言葉に、浩志はため息を吐く。どうも、言動の子供っぽいせつなと接していると、小さな苛つきを覚えるのだが、だからといって、一人放っておくこともできないような気がして、ついつい、気にかけてしまう。
「なぁ。その花は、本当にここに咲くのか? 別の場所なんじゃないのか?」
「絶対、ここだもん。お姉ちゃんと一緒に、ここにタネ撒きしたもん」
「で、もうすぐ咲くのか?」
「うん」
せつなは、絶対と言い切るが、どう見ても、まだ何もない花壇を見て、浩志は頭を掻く。
探し物をしているのであれば手伝おうと思って、せつなに声を掛けたのだが、花の芽吹きを待っていると言われては、浩志にはどうすることも出来ない。
なす術の無い浩志は、せつなを残して帰ろうと、立ち上がる。
その時、背後から、声を掛けられた。
振り返ると、学校指定のジャージに軍手とジョウロを手にした女子生徒が、不思議そうにこちらの様子を伺っていた。ジャージの色からして、高等部の生徒のようだ。
彼らの学校は、中高一貫校で、高等部の校舎が2棟、中等部の校舎が1棟、それぞれ建てられており、中高を区切るようにして、浩志達が今いる中庭が作られている。
「その花壇がどうかした?」
「あ……っと……いえ」
突然の上級生の出現に、浩志が慌てふためいていると、上級生は、浩志の足元にいるせつなに目を留めた。
「あら、あなた……」
上級生は、せつなに対して何か言いたげに、口を開いたが、結局、何も言わずに、口を閉じる。そして、浩志へと視線を向けると、優しげな笑みを浮かべ再び尋ねてきた。
「そこの花壇が気になるの?」
浩志は、せつなをチラリと見た。せつなは、上級生の存在など全く意に介さないかのように、花壇を見続けている。
せつなと話していても、拉致が明かないので、何か花についての手掛かりが掴めればと思い、浩志は口を開く。
「えっと……、先輩? は、ここの手入れをする人ですか?」
上級生の身なりから、そうだろうという確信はあったが、念のために、確認をしてみる。
「そう。私、園芸部なの。ここの管理は、私がしているけど?」
「あの、えっと……この花壇って、何か育ててます?」
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