第50話 レンインザ狂気
思い出すだけで身体がぶるぶると震えてしまう。俺はなんという大罪を犯してしまったのだろうか。あの一瞬、頭が狂ってしまったとしか思えない。
今、俺の目の前にはバルガスの死体が転がっている…
俺が天地球グリームヒルトに来てから解放感に浸っているの確かだ。
派遣で働いていた時のような倦怠感はない。挨拶をした、してないで揉める煩わしい人間関係もない。
派遣など将棋の駒でいうと所詮、歩だ。数は多いし捨て駒として使われる。君なんていてもいなくても同じだよ。代わりはいくらでもいるからねの世界。しかし、ここは違う。俺は求められている。マシュー君とこなすハンターの仕事は楽しい。メアリーちゃんと一緒に食べるご飯は美味しい。それに、ここには自由がある。俺が無邪気に振る舞える自由が。子供の頃のように。
時は遡る。
俺はバルガスとハンターギルドの一室で防衛団とギルド所属ハンターの訓練について話合っていた。真面目な議論だった。
だから何故、バルガスが突然そんなことを言い出したのか理解に苦しむ。
この点だけはバルガスも悪いと俺は思う。
「俺、イボ痔でよ。毎日、痛くて困ってんだ。レン、お前なんかいい治療法知らねえか? 」
バルガスのこの言葉に俺の脳は即座に反応してしまったのだ。善良さの欠片もない最悪の狂気の発動。
「ああ、それならこれをつけるといいよ。バルガスさん。イボ痔に効くと思う」
俺はバルガスに辛子十倍濃縮佃煮海苔の入った瓶を渡していた。
「おっ本当か、レン。それは、ありがてえ。ちょっくらつけてくらぁ。待っててくれ」
そう言ってバルガスは嬉しそうにトイレに行った。
それから少し時が経過した。
「うぉぉー、痛え、激痛だ。激痛が俺を襲ってきやがる。尻が熱い、今にも尻が爆ぜそうだ。レン、テメーまた俺に悪さしやがったな」
バルガスの怒声が聞こえてきた。
そうだろうね、バルガス。尻の粘膜に辛子十倍なんて付けたら痛いに決まってる。だからバルガスにそれを渡したんだ。
俺の思考はもう狂っていた。
「レンー、テメー許さねえぞ」
バルガスがトイレから戻ってきた。顔はひや汗でべちょべちょだ。
しかしやはり、持続する激痛に耐えられずバルガスは意識を手放した。
尻が爆ぜたのだろう。
すなわち、魂の死を迎えたのだ。
チーン。
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