宣言!

ダイブマスターになれば、もはやプロダイバーと呼ばれる存在だ。


私は泳力評価、ダイビングスキルの評価、そして海洋講習においてのアシスタントとしての役割、ダイブマスターが行うことが出来る講習などを実際のお客様を通して、または他のダイバーに協力してもらいながらそれらを学んだ。


協力をしてくれたのは主に萌恵ちゃんや芹沢さんで、生徒ダイバー役やファンダイバー役、はたまた事故者役なども演じてくれた。


(次は何を仕掛けてくるのだろうか? )


私はフットワーク軽く萌恵ちゃんを探る。

油断できないのだ。

萌恵ちゃんは詩織さんの指令のもといろいろなトラブルをばらまく役

私はその対応をしなければならないのだ。


今回はファンダイビング。

私がガイドとして引率している想定で行っている。

ダイビング場所は井田。

井田ならコースは単純、トラブル萌恵ちゃんに集中できる!


浅場を抜けて、水深10mを中層移動から水深をさらに下げて22m付近のコンクリートブロック(ケーソン)に降りていく。

それが今回のダイビングコースだ。


予定通りのコースを進み、後ろを振り返る。


(あれ? 何でまだあんな所にいる? )


私は萌恵ちゃんのところに近づいてみる。


..あっ! 片方フィンない!


片足のフィンが無くなっているのだ。


『待て』のサインを出して周りを見渡すと、バディ役の芹沢さんがこっそり指をさす。


外れてしまったフィンを拾い、萌恵ちゃんに渡し、フィンを履くサポートをした。

萌恵ちゃんに状態の確認をするとダイビングを継続だ。


水深22mへ水深を下げていくと、お決まりのトラブルだ。

芹沢さんが『耳が変サイン』を出すので、水深を上げてから段階的に耳抜きのトラブルを対処した。


深い場所のケーソンでは2人の残圧をしっかり確認する。


深い場所より水深を上げていく時は段階的に、そして膨張した空気排出の注意喚起もしっかりと行った。


このシミュレーションダイビングが終わると詩織さんから2つの指摘をされた。


① 方向転換、水深を変える場合、しっかりお客様の人数を確認すること。

② 移動スピードが速すぎる。泳ぐスピードは自分が思うよりも若干遅いくらいにする。


これらはダイバーを監督しトラブルを防ぐための、大切な事だと念を押された。


なるほど自分自身で思い当たる節があった。





シミュレーションは大切な事を学ぶには最適な講習だ。

けれど、私はやっぱり実践の中の講習の方が楽しかった。


運用のアシストは決して楽ではないけど、生徒さんのお手本になりアドバイスすることで本物のリアクションを感じることができる。

それがとってもおもしろく遣り甲斐があったからだ。




=====


そして季節は冬となる。

12月の中旬。

全ての課題をクリアして、私は晴れてダイブマスターとなった。


「おめでとう、桃ちゃん!これでプロダイバーの仲間入りだね。今回のコース、かなりハードな内容をクリアしたよ。スキルに至ってはインストラクターコースと同様の内容だったからね」


「本当ですか! 」


「だってうちのスタッフとして働いてもらってるんだもん。それなりに力量付けてもらわないと困るもの」


(こ、これは詩織さんの策にはまってしまったかも.. )


「ところで桃ちゃん、この先ダイブマスターとしてどうしようと思っているの? やっぱり『アクチーニャ』を中心にやっていくの? 」



「私、ダイブマスターとして活動しようと思ってないんです」

「なんで? もしかして嫌になっちゃった!? 」


「詩織さん、私、インストラクターになります!! 」


私の思いもよらぬ発言に詩織さんは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。

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