明里
もうあれから2年..
あの年もこんな風に異常に暑い夏だった。
しかもそれが沖縄だったんだから洒落にならなかったわ。
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『ビューティ メテオ』
私が働いていたコスメ&ビューティの会社だ。
この会社のサービス事業リラク・エステサロン・メテオ沖縄店に来て3年。
「―そういうわけで今年は名古屋の新店もオープン間近、会社は大きな進展を迎えます。沖縄店も肌の痛みをケアする新商品を打ち出しながら、お客様にネット販売などもお勧めして新機軸をみせていきましょう。なおキャンペーンに関して—— それと星宮さん、先日の件でお話があります。あとで店長ルームに来てください」
「はい、わかりました」
「また、明里さん? 何かあったんですか? 大丈夫ですか? 」
他のスタッフが気難しい店長に度々呼ばれる私を気遣ってくれる。
「うん、大丈夫。たぶん先日のお客様クレームの件だと思う」
・・・・・・
・・
——コンコン
「金森店長、失礼します」
「明里、待っていたわ。今日のあなたも綺麗ね。今夜、あなたに渡したいものがあるの。今日は早番でしょ。『サルージュ』で待ってるから」
「由美さん、それなら今、渡したらどうなんですか? 」
「また、いじわるね、あなたは。今夜楽しみにしてるわ」
店長の金森由美は私の上司であり姉であり恋人だった。
私たちは時々欧風レストランのサルージュで食事をした。
その夜も、由美さんと楽しいひと時を過ごした。
「明里、たぶんね、私、名古屋の店長になりそうなの。あそこは会社のモデルケース的な新しい店。すごい素敵だと思わない? 前々から希望出していたのよ」
「そうなんですね。由美さん、おめでとうございます」
「うん。希望者が多くてなかなか決まらなかったんだけど、会社の内部でほぼ私に決まりだって」
由美さんはうれしそうに、新店でやりたいこと、その先にキャリアを積み上げ、いずれ独立したい夢を語っていた。
まるで私の事を忘れてしまったように。
「でね、まだ私が居なくなるなんて先の話なんだけど、私とあなたの思い出にこのブレスレットを贈りたいの。あなたには私の誕生石。私にはあなたの誕生石。それぞれ身に付けて思い出を忘れないように」
「ありがとう、由美さん。とてもうれしいです」
その夜、由美さんは私に『一緒に行こう』とは一度も言ってくれなかった。
そして.. 新店の店長に選ばれたのは『私、星宮明里』だった。
店のスタッフからは羨望と嫉妬のまなざしがあった。
そしてひときわ強い感情は由美さんの眼の中にあった。
当然だ。
*****
私は由美さんを「サルージュ」に誘って話をした。
「由美さん」
「なに? よかったじゃない? あそこは私が話した通り凄いところなんだから、評判を地に落とさないようにせいぜい頑張りなさい」
「あの.. 私、辞退します。だから.. 」
「だから何? あなたがそんなことしても私が行けるってわけじゃないし、『あなたのお下がり』を受けろって言うの? 」
「そんなことは.... でも..」
「ああ、そうだ。こんな所にあなたといるよりも観たいテレビドラマあるんだ。じゃ、私帰るわね。ここにお代置いとくね。じゃ」
「 ——— 」
その夜、喉をなんど潤そうとしても決して潤うことはなかった。
きっとそれは止まることない涙のせいだったのだろう。
私は辞令を断った。
部長からは『チャンスを逃すことはない』と強く戒められたが、私は『金森店長こそふさわしい』と
私の意見が通ったのかはわからないが改めて名古屋店の店長には由美さんが任命された。
あの夜から由美さんは業務以外で私とは言葉はおろか目すら合わそうとしなかった。
しかし由美さんが出発の前日、ようやく言葉を交わす機会があった。
「由美さん、おめでとうございます。あちらでのご活躍、私、祈ってます」
「そう、最後まであなたは馬鹿にした存在ね」
私は会社を辞め、今は東京で不動産会社の事務スタッフとして働いている。
収入はまぁまぁ良い。
最近、私はSNSを通してダイビングチームに所属した。
そこで私の心の
私の名前は星宮明里25歳。
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