レスキューダイビングコース開始

峰岸さんが旅立ったその週の土曜日。


私はいよいよレスキューダイバーの海洋講習を受け始める事となった。

知識開発はすでに平日の仕事終わりにショップVisitに通い、ほぼほぼ終わらせている。


今回、レスキューダイバーコースを一緒に行うのはアドバンスコースで一緒だった芹沢洋一さんだ。


本当のところお盆休みに宿泊で海洋講習を受けたかったのだが、芹沢さんの仕事の都合上2回にわけて行うことになった。


夏真っ盛りで道路が鬼混雑するため早朝出発することとなった。


早朝4:50

「おはようございます。お二人とも朝早くご苦労様です。えっと2人はアドバンスコースで一緒だったんですよね」

Visitの詩織さんがレスキューコースの担当となった。


「芹沢洋一です。よろしくおねがいします」

「柿沢 桃です。ふ、ふつつか者ですが、こちらこそよろしくお願いします」


また、変なあいさつしてしまった..


芹沢さんは30代後半の男性。

凄く静かな人で物腰やわらかく聴き上手なひと。

そのためアドバンスではいまひとつ印象に残ってはいなかった。


これから向かう場所は終了時間を気にすることなく講習を行うことが出来るダイバーの聖地大瀬崎。


私たちは5:00には新宿を出発。

横浜町田付近で渋滞に巻き込まれたがそれ以降は順調に進み、私たちが大瀬崎に着いたのは8:30頃。

夏場としては奇跡に近い到着だ。

利用するサービスはハマハママリンサービス。

・・

・・・・


「まずはダイバーで混みあう前にここの緊急連絡について教えてもらいましょう」


大瀬崎の緊急連絡はビーチ沿いにある数あるショップが連携している連絡網だった。

図面をもとにハマハマのゆうこさんが丁寧に教えてくれた。


「こういう緊急時の事をダイバーが知っておくのは大切な事だから」


ゆうこさんはとても気さくでやさしいスタッフさんだ。


・・・・・・

・・


新品のウエットを腰まではいて、新品の器材をカートに積む。

汗をかきながらビーチ沿いの道を進む。


自分がダイバーなんだと思える一瞬だ。

空は青空、風はなし。

新しいことにチャレンジできる事で心ワクワクだ。


・・・・・・

・・


講習は足がつった時の対処方法など、セルフレスキューから始まった。


やがて『疲労ダイバー』、『パニックダイバー』など他者のレスキューへ発展していくのだ。


詩織さんが行う数々のそのデモンストレーションはとても鮮やかで私を感心させた。


とくにパニックダイバーの背中をとって制するスキルはかっこよかった!


まず自分の右手で事故者の右手を強く引っ張る。

すると自然と事故者の後ろに回り込むことが出来るのだ。

自分が回り込むのではない。

事故者を動かすのだ。


そんな手際がプロっぽい!


そして背中にあるシリンダーに自分の膝をはさむことにより事故者をコントロールすることができる。


もう一つの方法はさらにかっこいい。

事故者の前で素早く潜り、事故者の背後に素早く浮上して制するのだ。


何かジェイソン・ステイサムのアクション映画みたいでかっこいい!!

あざやかに決めたい業だ!


意外だったのが暴れて近寄ることが出来ないパニックダイバーの対処方だ。


『しばらく放置して疲れるのを待つ』のだ。


これって究極の放置プレイね..


・・

・・・・・・


「今まで練習してきたスキルはあくまでも事故者への対処法よ。でも忘れないでね、大切なのは『事故を未然に防ぐこと』なのよ。


例えば、潜降したダイバーがBCDに空気を入れようとパワーインフレーターを押し続けている。でも身体は全然浮かない。桃ちゃん、これって何が原因だと思う? 」


「インフレーターホースがつながっていない..とか? 」


「そうね。そしたらすぐにインフレーターホースを水中でつなげてあげれば解決するわね」


続けて詩織さんは言った。

「でも今のケースだってエントリー前の器材確認をしていれば未然に防げたわ。事故の大半は器材確認やプランの見直しで未然に防ぐことが出来る。これはよく覚えておいてね」


****


少し早めのお昼。


詩織さんは「ハマハマさんには悪いけど私、お隣の大瀬館の『鍋焼きうどん』が大好きなの」と、こっそり大瀬館で昼食を取る。


「やっぱり夏の海っていいですよね」

芹沢さんが言う。


「芹沢さんはどうしてレスキューダイバーコース受けたんですか? 」

「柿沢さんはどうして? 」


見事に切り返されてしまう。


「私は海の中で困った人がいたら助けられるようにしておきたいなって思って」

「そうなんだ。偉いなぁ」


「そんな大層なもんじゃないですよ。それに私、チャレンジするのが好きなんです」


「かっこいいね。僕はダイブマスターになろうと思って。ちょっと凝り性だから、やり始めた趣味は登りつめたいってあるでしょ? 」


「あ、わかります。それって結局私の考えと一緒です! 」


****


午後は海の中で芹沢さんと役割分担しながら事故者を捜索した。


もちろん本物ではなくて、事故者の代りは、詩織さんが沈めたダイビングバッグだ。


私たちはUパターンサーチを使って探索。


芹沢さんがナビする係、そして私が探す係。

ちょっとした宝探しゲームのようでとっても楽しかった。


****


帰りの車中、私はほぼ眠っていたが、凄いのは詩織さんの体力だ。

だってあの後、何時間も運転しているんだもん。

インストラクターって本当に体力勝負だなぁ..


「すいません。寝てしまって。詩織さん、大丈夫ですか? 」


「私? 大丈夫よ! だって私の相棒はこれだもの! 」


カバンから出したのは「眠眠打破ストロング!! 」だった。


ぐっ.. やっぱり凄い眠眠打破の威力....

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