異世界酒場の片隅で

ひなみ

超絶怒涛のプロローグ!

 ここはとある街の酒場『万福亭まんぷくてい』。

 満腹まで食えば余計な争い事は起こらない。その屋号やごうは店主のそういった考えの元に名付けられた。

 一見古びてこじんまりとした店構え。カウンターは五席、テーブルに至っては四卓。それは一般的ないこいの場としては偏狭へんきょうと言わざるを得ない造り。


 だがここは酒を浴びるように飲む者、または話に花を咲かせる者、そして一心不乱に飯をかきこむ者達でごった返している。

 この店ひいてはこの店主は、未知の食材、卓越した技法、そして料理人の華とも言える味をってして、初めこそは余所者よそものに対し懐疑かいぎ的であった食通どもを一刀両断と言わんばかりにうならせてきた。

 やはり万福亭は本日も大盛況そのものであった。


 そんな陽気で安穏あんのんとした昼下がり、何者かが蹴破るような勢いで店の扉を突き上げ挑戦状を叩きつけた。思いがけぬ静寂がこの賑やかだった空間を包む。続けて姿を現したその少女は、手にした皮袋を得意げな顔をして天高く掲げた。

 その様子に各座席からは、文字通りの大きな拍手や地を揺るがすような歓声が上がると賑やかさを取り戻す。しかし彼女はそれらに一切目もくれず言い放った。


「マスター、今日はコレお願い! 血抜きはもう済んでるから!」

「フン、それでも鮮度が落ちらぁ。とっとと調理場こっち寄越よこしな!」


 この物語は、美味い物を食すために時には戦い、悪は憎まず食料廃棄を憎み、ただひたすらに絶品料理を喰らい尽くす一冒険者の話である。

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