第5話 サーキス 足の裏の皮膚腫瘍(ひふしゅよう)
「くっそー、寝ている間に髪の毛を何本か抜いてやればよかった…」
フォードがいなくなってパディが悪態を吐いている。サーキスが質問した。
「あの、ベッドの上のシーツってフォードさんの血が付いたじゃない? これどうするの?」
「不衛生だから捨てるよ。消耗品だね。他に吸引機のホースも使い捨て。それから手術器具も患者さんの手術に合わせて作ってもらう時もあるから一回の手術で結構な金額がかかるんだ。さて君の手術をしようかな」
「あ、そうだった! やっぱり今するのがいいの?」
「君みたいな
「よくわからないけどそうなんだー…」
リリカがベッドの白いシーツを取ると下から金属製のベッドが見えた。不思議と銀色が強く光って見えた。リリカは一旦シーツを畳んで空いた作業台の上に置いた。それからアルコールを使ってベッドの消毒をする。
「硬くて寝心地悪そう」
「ははは。まあ、そうだね。でもこれの方が消毒をしやすいんだ」
「あ、もったいないから俺の手術、そのシーツを切って綺麗なところを使ってよ。俺の時は足のところだけにシーツを置けばいいでしょ?」
「え? いいのかい…。まあ、あんなハゲ親父のお下がりでいいなら僕は構わないけど…。じゃあ、ベッドに座ってあぐらをかいて。
サーキスはベッドに座り、あぐらをかいて呪文を唱えた。
「…テュアルミュールソー・リヴィア・
彼が言う足の中のそれは、茶色い米が溶けたような物がぐちゃぐちゃになっており、周りを薄いピンク色の皮が包んでいる。
「大きさはどれくらい?」
「五センチぐらいかな…」
「ふむ。君の腫瘍は出たり入ったりしてその時々に痛みを与えているようだね。ちなみに体内で破裂するとたいへんなことになるよ。じゃあ切ろうか。はい、ベッドにうつ伏せになって」
「お願いがあるんだけど! 俺、睡眠魔法無しで手術してもらいたい! 手術の痛みを味わってみたいぜ!」
「また変なことを言う。いや駄目だよ。こちらの手元が狂う」
「足をロープで固定したら!」
「足の裏は神経が多くて切られるとすごく痛いんだ。足首を固定しても必ず君は痛みで足を動かすはず。あと絶叫がうっとうしい」
「じゃあ俺が俺自身に
「それは麻痺を解除できる人間がいない。口も麻痺した君を誰が治す?」
「さすが先生、僧侶の呪文を熟知してるな! 負けたぜ、さあ俺を眠らせてくれ!」
サーキスが言われた通りにベッドでうつ伏せになってパディの方へ足の裏を向けた。
それからパディがリリカに頼んでサーキスを呪文で眠らせた。パディはメスで彼の足の裏を目玉焼きでも切るようにぷっつりと真っ直ぐに切れ込みを入れた。
「リリカ君、ところでさっき叫んでたけど、何があったの?」
足の裏の切れ込みは深くチョロチョロと患部から茶色い膿が出てくる。
「ははは…。トイレで鍵をするのを忘れてサーキスに見られました。いいんです。大事なところが見えなかったから」
パディは傷口の両脇を親指で押してさらにマヨネーズのようにビュルビュルと膿を放出させた。出て来た膿は素手で掴んでトレイへと移す。
「ふふふ…。こほっこほっ…。でも、サーキスみたいな奴は初めてだ。内臓を見ても全くびびらなかった」
「本当です! 今までの僧侶と全然反応が違います! …心臓を、見ましたよね」
「そう、心臓を真っ先に見た! 僕はとてもサーキスのことが気に入ってしまった。これはもしかしたらもしかするよね…」
「もしかしたらですよね! あたしも期待してしまいます! こんな僧侶は見たことない!」
しばらくしたら膿も出なくなり、ピンセットで膿を包んでいた皮を引っ張る。
「いつも思うけど、どうしたら僧侶さんはここに居着いてくれるんだろう? 僧侶さんが欲しい物って何だろうね? きっと彼らは人を助けたいと思うから僧侶になるんだ。怪我をした人達を救いたい。みんな基本的に優しい。いつかは
これまでにパディとリリカは何度も僧侶達に裏切られてきた。おかげでリリカの方は僧侶嫌いになっていた。
「ははは…。これが神への冒涜って言われたら身も蓋もないよね。そういえば体の中を視ただけでそんなことを言って怒った人がいたよね」
パディはもう少しだけ足を切り開いて皮を引き抜いた。そして傷口を生理食塩水で洗い、手術が終わった。パディの当初のイメージより大きく切開することになった。回復呪文がなければ全治数か月というところだろう。
リリカが言った。
「もっと僧侶達が目に見えるわかりやすいものを欲しがればいいんですよ! お金みたいな!」
「フフ。ここにはお金もないけどね。まあ、ポジティブに行こう! 何とか彼にアタックしてみるよ! 是非ともここで働いてもらう!」
しばらくしてサーキスが目を覚ますと彼はなぜか笑い出した。
「ククク…ハハハ…ワハハハ! 超いてえ! これは駄目だ、痛い!」
「サーキス手術、お疲れ様。起き上がっていいよ。右足を下に付けないように気を付けて座って。そしてさっさと回復して」
サーキスがまたあぐらをかいて足の裏の大きな傷を見て喜んだ。谷のような深く広い傷口。洗浄されたところからまた新しい血が吹き出している。
「ハハハハ! これは痛いはずだぜ! 我慢できない! あーもう、しばらく見てたいけどこれは回復するしかないぜ!」
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