05.2時だョ!全員集合


「……やっぱりたくさんいる」


 集合時間ギリギリに空中庭園に到着したレベッカは、目の前にいる群衆を見て項垂れる。


 入り口で近衛兵の言われた番号は125。やはり、マグライトやムラサキに言われた128人というのは事実であると実感した。


 あたりを見渡すと、ほとんど綺羅びやかなドレスを召した者しかおらず、レベッカには誰もが一癖も二癖もあるように見える。


 そして、遠巻きに見て、ものすごい不愉快なものを見せつけられていた。


 どこもかしこもマウント合戦である。


 私はどこどこの誰々だ、父親はどんな立場だ、資産はいくらだ、許嫁はだれだ。


 自身を語るのに、二言目には他人の名前や立場が出てくる。ものすごく、――不愉快で、どうでもいい言葉が沢山聞こえてきた。


 そして、


「――今度からお父様の名前を語るのはやめよう」


 そう、自身に言い聞かせるレベッカであった。


 地元で悪役令嬢と噂されていたレベッカのメッキが剥がれた瞬間である。


 周囲で行われているのはマウント合戦だけではない。理由はわからないが、すでに派閥が形成されようとしていた。


 マウントを重ねれば、誰が誰より上であるかは明白だ。貴族とは、マウントの上で胡座をかく地位であるということをまざまざと見せつけてくる。


 誰と誰が手を組むかが、よく見て取れた。そして、当の本人たちは気付いていないようだが、


「――あいつら、絶対裏切るな」


 レベッカにはそう感じられた。


 笑顔を浮かべて手を握り合う令嬢同士が所々に入るが、レベッカからすれば『チョロいな。事が終わったら蹴落とすだけよ』というようにしか見えなかった。


 この場にいる128人の令嬢たちの中で、明らかな田舎出身の貴族はすでに勘付いているのも多くいた。


 都会ほど、策略が下手なのかと言うほどである。それも、マウント故の余裕なのかもしれないが。


「――ボガード家のレベッカ妃は何処か」


 レベッカの耳に、聞き覚えのある声が入ってくる。


 その声を聞こえたのはレベッカだけでなく、この場にいる誰もが聞こえていた。声の主を視線に捉えた令嬢たちが黄色い悲鳴を上げていく。


「ここよ。何用かしら」


 レベッカの存在に気付いたものが近付いてくる。それは、レベッカに今回の件を使えに来た第一級執事のセバスチャンであった。


「レベッカ妃よ。遠路はるばる聖都へようこそ。いきなりではあるが、あなたは一度『寄宿城』へ行かれよ」

「それはなぜ?」

「あなた自身の姿を見よ。こう汚れていては、式典で悪目立ちだ。ボガード家が恥をかくぞ」


 ぐうの音も出ないパート2である。



「それに――あなたは封書の中身を読んでいないと、王立聖家の令嬢の中で噂が持ちきりです」


 他の令嬢に聞こえぬよう、レベッカに耳打ちする。


 セバスチャンとの距離が近いことで、刺すような視線がレベッカに集中するが、彼女自身、自らの知らぬところで噂を立てられていることに眉がピクリと動く。主に苛立ちという感情で。


「わかったわ。すぐに向かいます」

「『寄宿城』までは兵が。お前、レベッカ妃の案内を」


 セバスチャンの令を聞いた近衛兵が先導し、『寄宿城』へと歩みを進める。


 空中庭園を囲う様に経てられた建物が『寄宿城』であり、その道中、先程大通りで遭遇したマグライトと眼が合った。


 なぜかウインクをしてくるマグライトに中指を立てて兵へとついていく。




「滑稽だわ。まるで合鴨ね」


 そうつぶやいたのは、マグライトの傍らにいた御者の麗人だった。


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