悪役令嬢が魔法少女?

まきえ

悪役令嬢が魔法少女?と思ったら何故かコロシアムに転送されて魔法少女同士でロワイアル?

01.第一級国家魔法少女選別計画




「本戦に進んだものには、第一級国家魔法少女としての任を命ずる! 総員、心して己が力を見せつけろ!」




 国王の声が国営闘技場『コロシアム』のアリーナに反響する。それに続き、式典の開始を長らく待ちわびていた、スタンドを埋め尽くす民衆の雄叫びが響き渡った。


 満員御礼となった、客席を埋める富裕層の表情は明るい。この一大イベントを我が目で見たいとする者は多く、入場するために外では多くの金が動いたと噂される。


 貴族席には綺羅びやかなドレスを着た貴婦人や、高価な装飾物を付けた紳士が埋め尽くされ、彼らは卑しいとすら思える表情を浮かべていた。


「『本戦』? なにそれ?」


 コロシアムのアリーナの中で、国王の言葉に疑問を浮かべている少女がいた。




 レベッカ=クワッガー=エーデルフェルト=ボガード。


 聖都クーゲルスから遠く離れた、辺境の町に住む貴族の娘である。ただ―――貴族と認められていたのは数代前までだが。


 田舎育ちながら世間知らず、顔は良くても口が悪く、スタイルが良くても二言目には拳が飛ぶ暴力娘であり、周囲の住人からは悪役令嬢と揶揄されていた。


『私に文句? お父様が黙ってないわよ!』


 そんな彼女の父親は、娘の愚行に対して完全な味方にだけはならない、領地の民衆のことを大事にするすごくできた人だった。


 だが、口癖のように父親の名を吐き、周囲を呆れさせて育ったレベッカの下に、国王の使いにして、王族の広告塔として各地を疾走している第一級執事セバスチャンが訪れた。


 誰もが知る美貌に、屋敷にいる多くの者がたじろぎ、泣き崩れる父を尻目に、国王からの名誉ある襲名だと喜んだ。


「これで私も聖都デビューね!」


 華やかな聖都。綺羅びやかなドレスを着て、社交界に顔を出し、誰もが認めるレディになると息巻くレベッカは、その時はまだ、この知らせがどういうものかを知らない。


 この段階で、その知らせの本当の意味を知っていたのは、当主である父親だけだった。


「ふ、ふん。私ぐらいなら当然よね。貴族の娘なら、然るべき事だわ」


 聖都への招集に浮かれていることを悟られたくないレベッカは強めの発言をする。


 事情がよくわかっていない使用人や町民からは『はぁ……左様ですか』と半ば呆れ声であったが、『ああ。聖都に行けることが嬉しんだろうな』と10割の確率で見抜かれていた。


 そして、より呆れられていることを、レベッカ本人だけが知らない。


 父親の器用さと人当たりの良さで、ようやく築き上げた信頼を、レベッカだけが貶めていた。


「レベッカ。逃げてもいい。自分では背負いきれないなら、迷わず逃げろ。周りがお前を蔑んでも、私だけはお前の味方だ」


 聖都に旅立つ直前に、父親であるコクトー=クワッガー=ボガードが耳打ちした。


 誰にも聞こえぬような、震える声で告げた。レベッカはそれを聞いて、


「大丈夫よ、お父様!」


 満面の笑みで返答し、父の嘆きに気付かず、長距離移動用の馬車に乗り込む。


 外では膝から崩れ落ちた父親の姿にも気付かず、聖都での華々しい生活を妄想して旅路に出た。


「『第一級国家魔法少女に関する令』、か……。大層に銘打った令状ね。でも、これでこんな田舎暮らしともオサラバだわ」


 第一級執事セバスチャンから渡された令状の封書をひらひらとして眺める。彼が屋敷に訪問したときに、ほとんどの内容を口頭で知らせてくれたため、封蝋も開けずにしていた。


 現在の国王の印璽いんじは名誉なものだから壊せないという庶民的な考えが思考を占めていたためではあるが、王室からの迎え執事が必要なものはすべてこちらで揃えるとも云われていたため、ほぼ手ぶらで故郷を後にしていた。


 故郷を後にして半月ばかり。馬車による旅ではあったが、王直属の迎えで向かう以上、聖都に到着するまでの旅路はレベッカにとって有意義なものだった。


 一級品の衣服を買い、各地の最高級を食べ、各所に設けられた特別な場所で寝泊まりしていた。


 野宿など一度もなく、ましてや人の金での寝食に大満足で、むしろ聖都に着かないほうが人生を謳歌できるのではないかとすら錯覚する。


 その旅が終わりを告げ、聖都の大城門を越えたところで馬車から一人降ろされた。

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