排気ガス
未完き人
第1話
久しぶりに、本当に久しぶりにあなたから連絡が来ました。
「今、暇?」
時刻は夜の12時前、私は部屋の明かりを消して、ベッドの中にいました。
暇と言えば、暇です。
暇か、暇かじゃないかと言われれば暇です。
しかし、私はもう寝るところでした。
明日はお休みで、特に予定もありませんでしたから、起きてても構わなかったのですが、私はもう寝るところでした。
私は、なんと返信するか迷いました。
選択肢は2つです。
暇か、暇じゃないか。
時刻は、夜の12時前。
部屋の明かりを消して、私はベッドの中にいます。
私は答えました。
「暇だよー」
暇でした。
暇か、暇じゃないかと聞かれれば、限りなく暇じゃない寄りの暇なんです。
「一緒に歩こう!」
一緒に歩こうと言われました。
真夜中の道を、あなたは私と歩きたかったみたいです。
そういえば、昔はよくこんな時間にあなたと歩いたものでした。
他に人は歩いておらず、車もほとんど通らず、世界にはあなたと私だけでした。
少なくとも、私はそう感じていました。
私が、あなたしか見ていなかっただけかもしれません。
わくわくしました。
あなたに会うことも、
こんな時間に、家を出ることも、
本当に久しぶりで、とてもわくわくしました。
丁度良かった。
私は今、ものすごく暇なんです。
簡単な準備だけをして、家を出ました。
さっきまでベッドの中にいた私には、少し肌寒く感じました。
今年も、もうすぐ夏が終わります。
タクシーを拾いました。
あなたの所までは、10分もかからずに着きます。
一人で歩いてるあなたを見つけました。
さっきまで、誰かとお酒を飲んでいたようです。少し酔っぱらっていました。
道路を挟んだ向こう側。
横断歩道の信号は赤でしたが、待つのももどかしくて早足で渡りました。
「あぶないよ。」
あなたが私に言って、私はごめんとだけ言いました。
あなたが私の左側を歩きます。
なぜ私に連絡をしたのか聞くと、こう言いました。
「終電なくなった。」
「ばかなの。」
「ばかじゃない。」
こっちおいでと言い、あなたを私の右側へ誘いました。
「こっちがいい。」
また私の左側へ戻ろうとします。
「じゃあ、むこうに渡ろう。」
夜中で車もいなかったので、二人で道路をぺたぺたと渡ります。
道路の真ん中で、隣のあなたと目が合いました。
「キスしてよ。」
「いや、あぶないから。」
ゆらゆらしながら歩いたり、止まったりしました。
あなたは私を見たり、空を見たり、ふわふわしています。
大きなトラックが横を通り過ぎました。
排気ガスの匂いがして、臭いねとあなたが顔をしかめました。
途中のコンビニでお酒を買って、歩きながら飲んで、飲みながら歩きました。
楽しいねと言った彼女に、そうだねと答えました。
それがほんとの気持ちだったからです。
30分ほど歩いた頃、あなたが言いました。
「今日は満月なんだってよ。珍しいね。」
「うん、あなたは月に一回の出来事だったら珍しいと感じるんだね。分かった。」
「どこだろ。満月。」
あなたは空を探して、指しました。
「ほら、あれじゃない?まん丸だよ。」
私は、あなたとは違う空を指しました。
「ばかだな。そっちじゃないよ。ほら、あの雲に隠れてるやつ。あっちが満月だよ。」
「あ、そっかそっか。そっちか。」
「そう、そっち。」
「あれ、満月なの?雲に隠れてるから、まん丸かどうかわかんないね。」
「でも、間違いなく満月だよ。」
「どうして?」
「今日が満月の日だからだよ。雲に隠れて月の形が分からなくても、ましてや月が見えなくても、今日の月は満月だよ。」
「そういうものなのか。」
「そういうものだよ。」
「なんか、がっかりだね。」
そう言うとあなたは立ち止まり、お酒を飲みました。
排気ガス 未完き人 @lp141504
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