What's Done Is Done

名無之権兵衛

イントロ

「イントロ」その1


 それは静かに執り行われた。


 早朝の住宅街で、

  誰に気づかれることもなく、

   ひっそりと行われた。


 あたかも、それが自然の営みの一部であるかのように。


 あらかじめ、それが定められたことであるかのように。


 〝少女〟は屋上の地を勢いよく蹴った。


 接地面が無くなった足は、

    行く先も定まらずに落下を始める。



 ——〇はゴキブリを食べるんだって。

       とあるクラスのLINEグループ



 浮遊する世界は、

  まるでスローモーションのようだ。


 木々のそよぎも、

  小鳥の羽ばたきでさえ目で追うことができる。


 きっと〝少女〟が生命のことわりから逸脱したからだろう。


 周囲でとぐろを巻く風の音は、

  死神の鎌のように〝彼女〟の耳を切り裂いた。



 ——〇はレズビアンなんだぜ。

       とあるクラスのLINEグループ



 地が迫る。死が迫る。ゆっくりであれども確実に。


 けど、もう後戻りはできない。


 水の入った盆はひっくり返されたのだから。


 床に散らばった水を元に戻せないように、


 地を蹴った足を屋上に戻すことはできない。



 ——〇の手首は石でできていたんだよ。

        とあるクラスのLINEグループ


 ああ、落ちていく。


 〝少女〟は思った。

   その心にあるのは恐怖ではなく、希望だった。


 希望の種類は閲覧不能。

  それは彼女でさえ、知ることはできない。



 ピアノが一音、鳴る。

  まるで無意味な訓戒を告げるかのように。


 一音、また一音と

    規則正しいエコーを添えて鳴り響いた。


 一音——、また一音と——。



 ワッツ・ダン・イズ・ダン——ワッツ・ダン・イズ・ダン——



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