図れぬ真意

 しばらくして目覚めた二代目は、目が覚めると同時に事の顛末を悟ったらしい。青ざめた顔で、再び気絶するんじゃないかと言うように膝から崩れ落ちた。


「私は……私は、ただ、力に憧れただけで……なにも、こんな……」


 俺はあまり、二代目のことを知らない。知っているのはリリアの名前を真に継承したものであるということと、ネルの従者であるということくらい。二代目の行ってきたことを考えれば決して正しい道を歩む者ではないと思う。だけど、その真意が悪意で満ちているかと言われれば、きっとそうではないのだろうと思う。


「リリア」

「ネル様……」


 二代目はネルと向き合うと同時、目の淵に涙を浮かべた。


「申し訳ありませんでした! 私が、私がもっと、上手くやっていれば! ネル様は、ネル様はぁ……っ!」

「リリア、落ち着いて。あなたはよくやってくれました。もう、苦しむ必要は無いんですよ」

「私はぁ……っ!」


 嗚咽混じりの泣き声は、あまりに辛く痛々しかった。聞いているだけで胸が締め付けられるようなその様を見ていられなくなった俺たちは、二代目とネルを二人きりにしてその場を離れた。きっと、二人で落ち着ける時間も必要だろうと思った。


「あれ、良かったのかしら」

「ネルたちのことか?」

「ええ。変な事は、やらかさないとは思うけど」


 心配そうに呟くのはソルだった。


「私はこの千年眠っていたから分からないけど、リリが、初代クイーンエルフが邪神復活の為にネルに利用されそうになっていたって話。それってつまり、二代目もネルに利用されそうになっていたってことなのかしら」

「どう、なんだろうな。そういう感じじゃなかったよな。最終的にはネルが最初に邪神になって、二代目のは偶発的な物みたいだったし。リリ、何かわかるか?」


 困った時は当人に、と思って投げ掛けてみるとリリは難しそうな表情を浮かべて考え込んだ。


「私は昔、ネル様が邪神復活を計画しているということを知り、そのために私を利用しているということを突き止めて以降ネル様の考えを伺ったことはありませんでした。当然、その事を獣王以外に他言もしていません。もしかするとそこには、何か勘違いがあったのかもしれません。私はてっきり、私が邪神復活のための媒介にされると思い、獣王に匿って貰っていたのですが」

「勘違いって、例えばどんな?」

「簡単な話です。邪神の礎となるのは元々ネル様ご本人の予定だった。私が任されようとしていたのは、そのためのサポートだったんじゃないか、と言うことです」


 サポート。なるほど、確かにそれもリリを利用するということにはなるのか。俺が納得しかけていると、隣から我が主リリアが割って入った。


「そのことについてなんだけど、私の母、三代目と呼ばれるエルフの役割から分かることがあると思うの」

「三代目? そういえば、二代目に吸収? されたって」

「うん。私の母はある程度成長したところで二代目が力を増やすための生贄になった。私はそうなることを定めだと教えられてきたけど、その時に言われていたことはこうだった。あなたたちは邪神様を復活させるため、復活を手助けするために必要な力を私が手に入れる、その手伝いをして欲しいの。そんな感じ。この言葉から察するに、二代目が力を必要としていたのは邪神になるためじゃなくて別の理由があったんじゃないかな」


 別の理由? 邪神になる以外に、力を求める理由ってなんだ。力があれば邪神に近づいて、邪神になりやすくなる。そのためにリリアたちを……。


「って、待てよ? 邪神に近づく?」

「お兄ちゃん? どうかしたの?」

「あ、いや、ちょっと思いついたんだが……」


 俺の呟きを、いつの間にか隣にいた黒江が拾った。本当にただの思い付きで口にするか迷っていたのだが、拾われてしまった以上は言ってしまおうと口を開く。


「もしかして、邪神化して暴走したネルを止めるために、二代目は力を溜めてたんじゃないか? いや、ちょっと言い方が違うか。万が一ネルが暴走した時のための保険として、二代目はネルを止められる力を必要としていた、か」


 ネルはこの千年以上亜人たちを纏めていたし、大切にしていた。邪神になったってきっと傷つけるつもりは無かったはずだ。だからこそ、邪神に魅了され、その力を欲しながらも自信が国民を傷つけることを嫌った。だからこそ、千年以上かけて二代目に力を蓄えさせ、自分が暴走してしまった時に止めてもらおうとしたわけだ。


「ネルが邪神になった後、二代目はリリアの所に現れた。あれって本来、用済みになったリリアを念のため始末するためとも取れるけど、必要のなかったことじゃないのか? だって邪神の復活自体は成功したんだから。俺とリリア、リリが必死に抵抗して、形勢が逆転するところまで追い込んだ。その時点で退いたって良かったはずだ。その時は頭に血が上ったと思ってたけど」


 違う。今考えれば、あの怒りや焦りはそんな自分一人だけのためのものじゃなかった。


「俺たちの力を糧にして、ネルを止めるつもりだったんじゃないかな」

「……考えても仕方ないかなって思ってたけど、不思議と納得できたわね」

「そうですね。合点の行く話です」

「結局は俺の予想だから、何とも言えないけどな」


 まるっきり違う可能性もある。でも、


(ん、そうだったら、許せる、でしょ?)


 だな。責めるに責めれなくなる。だって、彼女も彼女なりの正しさを追い求めただけなのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る