戦場へ
ソルと合流した。
それは今まで途絶えていた仲間との連絡が可能になったということであり、亜人国の情報を知るためにも重要なことだった。けど、まずは目の前の集団を一通り屠るところから始めなければならないだろう。
「ちなみに、ここにいる邪神を倒して終わり、なんてことはないよな」
「どうかしらね。私はそんなこともあり得るくらいには、邪神教の連中は弱いと思っているけど」
「悪いがここにいるみんながみんなお前ほど強いわけじゃないんでな。慢心だけはしないでくれと言って置こう」
「はいはい、分かったわよ」
適当に返事したソルが微笑んで殺戮者の笑みを浮かべた。それこそ、新しいおもちゃを見つけたかのような純粋な笑みだ。
「さっさとついて来ないと獲物を残すつもりはないからね。まあ、付いて来ても巻き込まない保証はしないけど!」
「おお、怖い怖い」
流星群のような速度と破壊力で飛び出したソルの後ろ姿を少しだけ追った後で振り返る。
「と言うことだみんな。どうする?」
「私は、僅かばかりなれど尽力させていただこうかと」
「妾も、動いておかぬと体が訛るかの」
「右に同じく」
それだけ答えたリリ、ルナ、リルもソルに続くように飛んで行く。ここにいるやつらは空を飛べることが前提なのだろうか。短時間ならともかく、あんなふうに空を走るのは俺にはまだ無理だ。
残った黒江、テト、リウス、かなへと視線を戻す。
「黒江たちはどうする?」
「私たちじゃあの魔獣たちの戦いに巻き込まれたら生きて帰れる保証がないからね。お兄ちゃんの言葉を信じて出番は後回しにさせてもらうよ」
「必要かは分かりませんが、怪我した人が居たら治癒させていただきます」
「怪しい動きがあったら知らせよう。それ以上は干渉しない」
「そうか。まあ、ヘイルたちもこっちに来るだろうし、合流しておいてくれ。一応周囲への警戒は忘れないでくれよな」
リウスの探知能力があれば、それこそこの戦場すべてを完璧に把握する位なんてことはないのであろう。それを考慮すれば、多少は気を抜けると言うものだ。
「そういうお兄ちゃんはあっちに行くの?」
「かなの付き添いだよ。な」
「ん、かなが行くから、付いて来てもらう」
「そっか。じゃあ頑張ってね」
「ん、皆のために頑張る」
そんなかなの言葉に不覚にも感動しかける。あれだけ自己欲求優先だったかなが皆のため、なんて言い出すのだ。驚くのも仕方ないだろう。でもまあ、これも成長と言うことなのかね。
「かな、行くぞ」
「もちろん。言われるまでもなく、倒しつくす」
「と言うわけだ。じゃあまたあとでな」
「うん、行ってらっしゃい」
小さく手を振る黒江の見送りが、なんだかとても懐かしく思えてしまった。且つては学校に行くとかコンビニ行くとか、そんな何でもないときに欠けられていた言葉だった。今では戦場に送られるときに欠けられる言葉になったのだと思うと、不思議な感覚になる。
それでもまあ、嬉しいもんだな。
感覚がとち狂ってる自覚はあるさ。
感情ばかり先走るらしいかなの隣に一歩踏み出した俺も、地面を勢いよく蹴って戦場の渦に飛び込んでいく。もちろん、先に踏み出したのにも関わらずかなに先を越されているが。
「『魔拳』」
空を駆けるかなの拳に魔力が集まり、黒い塊となる。そしてそれを着地と同時に地面に叩きつけると、それこそ隕石でも降って来たかのような爆音と爆風が発生し、周辺にいた邪人や魔人たちを一斉に吹き飛ばす。
そうしてできた戦場の隙間に俺も着地し、辺りを見渡す。すると、もうすぐそこに邪神の姿が見えた。見上げて見れば、やはりでかい。
「しかしこいつ、妙だな。どういう理屈か魔人は大量に召喚してるっぽいが、結界を張ってくる気配がない。相変わらず複製品っぽいが」
「ん、弱っちい」
「それに、あっちにはリルが向かったみたいだな。ソルが譲らないと思ったけど、意外だな。まあ、大方邪神の相手をちゃんとしたことがないリルに出番を譲った、とかだろうな」
邪神の周囲を駆け回る様に宙をかけるリルの姿。その足元にはどうやら踏み込む度に氷の足場が出来ているようだ。そうして空を駆けながら、黒色の矢を振りまいて邪神へと放って行く。リルは以前も言っていたが、影狼はスキル的に火力が不足しがちだ。
フェンリルだった頃と違い、高火力広範囲の氷魔法は扱えず、主な攻撃手段は影を活用した撹乱や陽動の合間に挟む肉弾戦だ。
リルの場合は
それでも挑むということは、勝算はあるということなのだろう。リルは無謀な戦いは挑まないスタンスの奴だ。かなが周囲の魔人たちを倒す傍らで、俺はリルと邪神との戦いを見守ることとしよう。
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