第五章

お呼ばれ

 始祖竜との戦闘から五日。撤収作業は終わり、最前線基地も当面仕事がなくなったころ、俺とソル、かなは亜人国の王宮にお呼ばれしていた。もちろん、ネルにである。リリアは先日の戦争の報告書をまとめるためにこの城に来ているそうだし、ソルはソルでネルに個人的に呼ばれているようだ。この城に気配を感じるし、またあとで会うことになるだろう。

 俺は俺で対話しやすいようにリルとの憑依一体をすでに発動中だ。かなは隣でソファで寝ている。ここが控室だと知っているはずなのだが、相変わらず寝るのが好きなようだ。頭を軽く撫でてやれば、気持ちよさそうにもっとなでろと頭を手に擦り付けてくる。しばらくかなを楽しんでいると、扉がノックされた。一応気づいていたが、リリアだろう。


「司君、ネル様がお呼びよ」

「わかった。今行く。ほらかな、起きて」


 軽く頬を叩きながら呼びかけ、一応念話も飛ばしておく。すぐに小さく声を開けながら目を薄く開き、体を起こす。目をこすりながら、片手で伸びをするかなは、ふあぁ、と可愛らしい声を上げる。


(かな、行くぞ)

(ん、わかった)


 かなの返事を受けて頷き、扉へと向かう。扉を開ければそこにはリリアがいて、優しい笑みで出迎えてくれた。後ろからまだふらふらとしたかながゆっくりとついてきているのを確認して、リリアに案内を頼む。リリアは小さく頷いて俺に背を向け、廊下を歩き始める。かなを先に行かせ、扉を閉めてから俺も二人を追った。


 そうしてたどり着いたこの場所を、謁見の間というらしい。部屋の奥には玉座が設置されており、その上にはすでに誰かが座っている。と言ってもネルであることは確かめるまでもない。そしてもう一人、この部屋には先客がいたようだ。


「ソル、出て来いよ。そのカーテンの裏だろ」


 気配察知を使ったわけではないがなんとなく直感が働いた。この部屋の窓はカーテンでふさがれているがその一つを指さして俺は言う。リリアとかなが驚いたような表情を浮かべたそのあとに、俺が指さした部屋の奥のほうのカーテンをめくってソルが現れた。その表情は、驚きに目を見開いたものだった。


「え、びっくりした。まさか見つかるなんて」

「なんとなくな。流石に何回も気配を隠し通せると思うなよ?」

「ほ、本当にいたんですか? わからなかったです」

(かなも)


 ネルも少し驚いたような表情を作っているのが分かったが、あれはソルが隠れていたことに俺が気付いたことに驚いているのだろう。視線がこちらをとらえていた。


(ふむ、スキルの類ではない。ソル嬢独自の隠密術だろうか。我でも気づけなかったが、よくわかったな)

(なんとなくだって。そこにいる、って感じたんだよ。それに、どうせ先に来て入るんだろうなぁと思っていたし)

(なるほどな。戦闘でもその勘を生かしてもらいたいな)

(善処はするよ)


 リルにお褒めの言葉を預かり、俺はいまだ驚いた様子のリリアとかなを追い越して前へ出る。ネルの下へとではなく、ソルの下へとだが。


「ようソル、五日ぶりだな。元気してたか?」

「……なに、あなた。私があなたがいないと五日で気落ちするとでも思っているの?」

「そ、そういうわけじゃないんだが……」

「まあいいわ。それより、早く話を聞きましょう。ネルから提案があるそうだから」

「お、おう……」


 相変わらず気難しい奴だった。俺の言い回しはそんなに気に障るだろうか。

 しかしソルの言も最もなのでリリアトカナと合流して、ネルが座る玉座の前へと進む。リリアが最初に片膝ついたのでまねしたほうがいいか、と思ったところ、ソルが肩を押さえてきた。


「真似はしなくていいわよ。というか、私が同格と認めたあなたがネルに頭を下げるのは納得いかないわ」

「お、おう、わかった……。ネルさんもそれで大丈夫ですか?」

「構いませんよ。そもそもあなたたちは私の直属の部下ではないですしね」


 そうはいってもリリアの部下なので上官が膝をついているのに俺たちだけ立っているというのは問題がある気がするが、まあ確かにネルが認めた配下というわけではないだろうし頭を下げるのもおかしな話か。……いや、微妙だな。というか国の王様に頭を下げること自体はなにもおかしくないのでは……。

 まあ、理屈どうこうではなくソルからの頼みだし従うが。かなももちろん頭を伏せたりはしない。まだ眠そうなので目を離したすきに床に伏せていそうだが。今うまいこと言った。


(そうでもないな)

(ナチュラルに心読むのやめろ)

(いや、わずかに漏れ出していたぞ。魂がほぼ融合しているのだ。心の中の声もたまには聞こえる)

(え……なにそれ怖い)


 これからは気を付けよう。

 俺がそう決心を固めた後で、ネルが話を始めた。

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