(それで? 俺たちは何をする?)

(ピクニック。ソルを誘ってお散歩に行こ)

(おお、面白そうだな。でも、ソルをどうやって誘うんだ?)


 リルたちが出発した二日後の朝、俺とかなは借りていた部屋のベットの上で二人並んで横になっていた。時刻は六時半、まだ起きるには少し早いかもしれない。なんだか近頃気温が下がっている気がしていて、日も短くなっている。夏はあまり感じなかったが、秋が近いのかもしれないな。 

 そんなことを考えながら今日をどう過ごすがかなと話し合っていると、かながよさそうな案を出してくれた。まあ、ちょっと難易度は高そうだがな。


(多分、かなたちが面白そうなことしていればソルから来る)

(そういうもんか? まあ、あいつは自由奔放だし何を考えているかわからないからな。あり得ない話ではないか。それじゃあ、飯を準備したら出かけるか)

(ん、楽しみ)


 やることを決めた俺たちはベットから体を起こし、それぞれ準備を始めた。

 まあ、準備と言っても俺が昼ご飯を作る以外にやることは特にないが。取りあえずサンドイッチを詰め合わせてバスケットを閉める。それをもって外に出た。


 かなは基地を出たところ位にある大岩に腰掛けて足をぶらつかせていた。こちらに気づくと、小さく手を振った。


(じゃ、行くか)

(ん、今日は原っぱの方に行く)

(了解)


 この基地の周りには荒れ果てた戦場跡、世界樹、原っぱが存在する。今回はそのうちの原っぱに行こうというわけだ。まあ、近場で一番気持ちがよさそうだからな。


 そんなわけで一歩踏み出してみれば、心地よい微風が頬を撫でて――


「いや微風じゃない!?」

「んっ!?」


 後ろから吹き荒れた強風に驚いて後ろを振り向いてみれば、息を詰まらせ目を見開くかなの目の前にソルがいた。


(これからお出かけ? 私も付いて行ってもいいかしら?)

(い、いいが、驚かせるなって言ってるだろ、心臓に悪い)

(音もなく近づくのもダメ、大きな音を立てて近づくのもダメ。じゃあどれがいいの?)

(お前に0と100以外の選択肢はないのか)

(まあ冗談よ。なんだかわからないけど、あなたの苦労していそうな顔をを見ると困らせてみたくなるのよね。私がどちらかというとそちら側の立場だったからかしら。ストレス発散だと思って許してほしいわ)

(理不尽にもほどがある……)


 俺が苦労していそうだと思うのならば気を遣ってほしいものだ。ただ、まあこいつも苦労してきたのだろうし、気に入ってもらえただけでもいいことか。強いやつとは戦うより仲良くなる方がいいのだ。それは、こっちの世界に来てから今まで身をもって体験してきた。

 リル、リリア、ルナ、アリシア。あと一応ソル。みんな本気で敵に回られたらどうしようもないような強者たちだ。まあ、リルに関しては一応相手が油断していたというのもあって勝てたが。あれだってほぼほぼ運だ。起死回生の即死はどれくらいの確率で発動するのかも発動条件があるのかもわからない。完全に運頼みの切り札にさえなり得ないようなものだ。


(で? 二人はどこに行くの?)

(今からピクニックだ。みんなはもう戦争に出かけたからな)

(ん、ソルも誘うつもりだった)

(え? そうなの? それはありがとね。久々に目覚めてすぐに新たな友人ができたのは素直に嬉しいわ。でも、そうなの。もうリリアたちは出かけたのね。……一応、警戒しておきましょうか)

(何をだ?)

(強大な力よ。あなたたちやリリアはもちろん、私やルナでさえも凌げるかわからないほどの力)

(急展開過ぎてついていけないんだが?)


 突然世界が終わるようなことでもあるというのか? ソルやルナが抗えないって、相当だ。人間史上最も強いとさえ思えたアリシアでさえ赤子のように扱って見せたルナが勝てない、そんな存在がこの世にいるのだと思うだけで恐ろしい。


(ま、今は気にしないで行きましょう。私もピクニックを楽しみたいわ)

(そうだな。今日のうちは気楽に楽しもう。どうせ身構えてもどうにもならない存在なら、今を楽しむべきだからな)

(そうね。私もそういうスタンスで生きているから共感できるわ。かなちゃんもそれでいい?)

(ん、楽しむ!)


 ソルもなんだかんだ言って余裕そうだ。それはきっと自信があるからだ。どんなことをしてでも、生き残る自信が。きっと想像もできないんだ、自分が死ぬ未来を。それは、俺も一緒だ。いつまでだってかなと、リルとルナとリリアと、アリシアやソルといつまでも一緒に、誰も欠けずにいられるって思っている。別に、願望なんかじゃない。それが、当たり前だと思うから。それをする覚悟が、俺にはもうあるから。ただ、それだけのことだった。


 頬を滑る空気が運ぶのは、冷たくなってきた秋風だ。きっと、この風はこれから何度も季節を重ね、姿を変えながらときには俺たちの背中を押し、時には向かい風となって行く手を阻む。でも俺は、そんな空気の中で生きているのだから、付き合ってやるしかないじゃないか。


 俺は今を楽しみ、今後一生涯続くを大切にして見せる。

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