日常?

「んんっ! 久しぶりに全力で体動かしたなぁ!」


 大きく伸びをするリリア。それを苦笑いで見つめる司と眠そうな目を擦るかな。

 一通り遊び――という名の激闘――をした三人はリリアの家に戻ってきていた。ちなみに、俺は結局遊びに参加させられ、かなりぼこぼこにされたが死ぬことだけは免れた。傷はすべてリリアとかなの魔法で治したが、何もできぬまま魔法で攻撃され続けたという心の傷はしばらく治りそうになかった。


「ははは……そりゃよかったよ」

「えっと、ごめんね? 巻き込んじゃったみたいで……」

「いや、良いんだよ。弱い俺が悪いんだから」


 ステータスで完勝しているはずなのにリリアは圧倒的に強かった。戦闘種族であるハイエルフとして亜人国の最前線を仕切るリリアは俺よりも遥かに戦闘の才がある。仕方のないことだと割り切って今後も頑張ることにする。


「ほ、本気で落ち込んでる……? ほ、ほら、パンを焼いてあげる! それで元気出して!」

「別にそこまで落ち込んでるわけじゃないけど、リリアのパンはありがたくもらおうかな。美味しいからな」


 リリアが初めてパンを買ってきて、俺とかながそれを美味しそうに見ていたからかいつからかリリアは自分でパンを焼くようになっていた。リリアの家に籠っていた二か月の間に何度も振舞われたそれは本当に美味しかった。食感もそうだが味も素晴らしいものだった。大した調味料もないはずなのに程よく甘く、それと一緒に出されるジャムも飽きさせなかった。

 リリアには植物図鑑という固有スキルがあり、植物のことならば何でも分かる。パンを作るのにいい小麦やジャムにするのにいい木の実。調理法から処分の方法までありとあらゆる植物に関する知識を備えているので彼女が作る植物関係の食べ物は皆絶品だった。


「いつもありがとうな」

「ううん、やりたくてやってることだし、司君の主だからね。ちゃんと仕えてくれる子には優しくしなくちゃ。……そうしたら、お疲れのところだとは思うけど食事と一緒に成果の報告を聞いてもいいかな? 私も国の方にちゃんとした報告資料をまとめないといけないし。リルさんも一緒にいいかな?」

(もちろんだ)


 さて、どうやら再会を喜ぶのはここまでらしい。一旦仕事の話に戻るのはいいとして、まずは手でも洗ってこようかな。手が汚れたまんま料理を食べるわけにはいかないからな。

 というわけでかなと手を洗い、リビングにある丸机の食卓を囲むように席に着き、リリアの料理を待った。


 十数分もすればリリアが戻ってきた。リリアの魔法があればパンをすぐに焼くことができる。数分もあれば発酵させることができて、食べたいと思った時に食べられる。魔法ってすごい。

 リリアは手に持つパンの入ったバスケットとサラダの盛り合わせ、ジャムを並べて自身も席に着いた。リリアと一緒にいただきますと言って、しばらくは食事を楽しんだ。

 相も変わらず美味しいリリアの料理に舌鼓をうち、料理の八割ほどを食べたころリリアが話を切り出した。


「じゃあ、聞かせてもらってもいいかな?」

(ああ。では、これからは魔術・精神を使ったコミュニティを作り出し、それで会話するとしよう。かな嬢の意見もスムーズに聞きたいのでな)

(ん、わかった)

(よし、始めよう)


 リルが魔法を発動し、ここら一帯の思念を集結させ同時に複数人で念話を交わせる空間を作る。


(では、まずはオレアスの現状から――)


 それからリルは俺とかなが補足を入れながらであったが三十分ほどをかけてオレアスの現状について話した。戦争準備を推し進めていたこと。それにより自国の防衛が薄いこと。亜人国に同盟を申し込んできたこと。そして、他の国に狙われているということなどを一通り話したのち、リリアに意見を仰いだ。


(そうねぇ、現状は大体わかったわ。こちらに協力的な姿勢を見せるオレアスを無下にすることもできないし、同盟を結ぶということ自体に国は反対しないと思うわ。三国同時に相手取るのは無理だから、むしろ不可侵条約くらいは積極的に結びたがるはずね。と言っても、亜人国の戦力なら人間の国は相手にならないと思うけどね)


 亜人国については詳しくないが、ドワーフやエルフ、バルキリーなんかが主な勢力だという。国王がどの種族かは知らないが荒っぽいようだ。実際に会うことがあるとしたら刺激しないように注意しなくては。


(それで、もう一つの国の方だけど……国に報告し、宣戦布告をし、先手を打つ提案をするわ)

(それが正しい判断だな。後手に回るのは望ましくない。早い対応をお勧めする)

(そうするわ。じゃあさっそく私は作業に取り掛かるから、皆は楽にしていいわよ)


 リリアの真面目な雰囲気に少し気圧されたが、俺にも覚悟はできていた。これから始めるのは、戦争だ。

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