第18話  ベアの記憶 2


 兎の魔物の跳躍力は常識では考えられないほど高かった。


「私だって……私だってできるんだから!」


 ベアが両手を前にだすと同時に強い突風がおき風の刃が兎の頭にはじけ飛ばした。兎は少しピクピクしていたがびやがて動かなくなった。




「ほら……大丈夫。私だって魔法が使える」


 ベアは自分の身体を抱きしめながら震えている。本当はかなり怖かったに違いない。

 魔法は使えるようだが、慣れていないようだ。一人で戦ったのも少ないのかもしれない。


 でも、自分の力を見せられない方が彼女にとっては辛かったに違いない。誰かに力を認めてもらって信じてもらうだけで全然違うものだ。


 だが、そんな彼女を森の魔物は休ませてくれなかった。


「うそ……」


 ベアのまわりには先ほどよりも体格のいい兎が11匹あらわれた。

 逃げられる数ではない。かとってベアがまともに戦える感じではなかった。


 ベアは狙いも定めずに魔法を放つ。風の刃は木々に当たりながら大きな兎へと向かっていく。でも一向にまったく当たらなかった。先ほど当たったのは相手も油断していたのがあるのだろう。


 兎たちは徐々にベアとの距離をつめていく。


 そして1匹がベアの真正面まで来た時、ベアは両手を前にして魔法を放とうとしているが……まったく手からは何もでない。


 ベアの表情が悲しみから絶望へと変わる。もうあと数秒でベアの命は終わりを告げる。


「嘘こんな最後は絶対に嫌!」


 ベアは目をつぶり、その時を震えながら待っている。

 1秒……2秒……3秒。いつまでたってもベアに兎たちの攻撃が届くことはなかった。


「ベアトリーチェ様大丈夫ですか?」


 ベアの目の前には髭を生やしたおじさんの顔があった。


「いやー!!」


 叫び声とともにベアは最後の魔力を拳に乗せてパンチを繰り出した。まるで予想をしていなかったせいか、そのおじさんは派手にふっとび背中を木に打ち付けていた。


 他の兎たちはおじさんの仲間4人と白い尻尾の狐が倒していた


「ロベルト隊長! 大丈夫ですか?」

「ハハっ! 女の子から拳で顔面殴られていやがんの」


 森には隊長を心配する部下の声とロベルトと呼ばれた男を馬鹿にすうような声が響いていた。

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